OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

大島弓子「四月怪談」

 故郷に帰ってくると高校生のころ愛読した本を久々に読み返す。大学合格とともに実家を出た人は特にその傾向が強いと思う。高校時代と大学時代の読書や音楽の趣味が明確に分けられている感覚。
 大島弓子作品を愛読していたのは、高校2年からで、高校3年の時には「まだ宵の口」という受験生を主人公にした短編を読んで気を取り直すような日々だった。大島弓子の作品には、その可愛い絵柄に隠されているが、死が常に隣り合わせにあるし、人間関係のどろどろとかも描いている。その辺、スピッツと似ているかも。
 なんで大島作品にはまっていたのか。今の俺だって大島作品の魅力を充分に説明し尽くせ得るような語彙は持ち合わせているわけじゃないけど、多分将来だの何だの、ある程度真面目な人間なら必ず抱くであろう悩みをテーマにしていたからなのだと思う。今だってそうだけど、「死にたい」って思う頻度は今よりも遥かに高かった。だから死を内包した大島作品に惹かれたんだろうな。それと、きちんとした教養に基づいていながらもランボーからデヴィッドボウイまで網羅する文学趣味も当時の俺の好奇心を刺激したのだろう。
 この「四月怪談」は80年代初期くらいに発表された短編を集めたもので、基本的大島弓子の作品は流行とは別のところにあるのでそういった時代性はあまり意味をなさないような気がするんだけど、作家の流れから言うと80年代後半の、絵もネームも無駄を省き主題にのみスポットライトを当てるような(一種の)完成形に向かう時期、いってみれば「過渡期」だと思う。情報量は一番多い時期だ。だけど、それがなんか一層俺を惹きつけた。あと、白泉社の文庫本には珍しく暗めの紫がカバーの基調の色になっていて、イラストも表紙全体にある。
 大島作品で一番好きなのが「金髪の草原」。これは片恋の悩みを、自分は20才だと思いこんでいる老人と、それを介護する女子大生のホームヘルパーの話を通して描いているんだけど、なんて言ったらいいか。とにかく読んでもらいたいです。

四月怪談 (白泉社文庫)

四月怪談 (白泉社文庫)