OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

中島らも「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」

 2004年の7月26日に中島らもさんが階段から落ちて亡くなられた。僕はもともと新聞もとらない上、そのころはテレビすらほとんど見ていなかったので知ったのはだいぶ後、イエローモンキーの解散でネットをあさっていたときに知ったと思うので、自分でも不届きだとは思うのだけれど。ただ、誰か著名人が亡くなって涙を流したのは中島らもさんが初めてだった。合掌。
 それで、この本を紹介するのだけれど、これは中島らもさんの半自伝的エッセイで、大体中学高校時代からアルコール中毒になった20代後半までが描かれている。中島らもさんの文面というのは、決して強くは語りかけない。関西人ということもあってか、ボケとツッコミの流れがしっかりしているし、思想もしっかりしている。けれど、自分のことを高く評価しないゆえ説教的になることはけしてない。そして、さまざまなカルチャー(それこそドラッグから漫画まで)に含蓄が深くとも、それらの引用がいい具合に品がなくてアカデミックにならないところがいい。のちに「おれ」に代わってしまったけれど、この頃の「僕」の一人称で語られるらもさんの語り口は優しくて、少し気取ってて、本人たちは100パー真面目にもかかわらず友人と結成したバンドがコミックバンドになってしまった話とか、同じような底辺の友達とだべっていたときの話とか、アルコール中毒になったときの話とかをするときも文体から漂ってくる限りでは根は真面目で、とか、らもさんの文章に対する愛は語り終えることがない。
 この本を知ったのはオーケンがエッセイで取り上げていたのがきっかけなんだけれども、オーケンも取り上げていたが、らもさんが20歳で自殺した友人に触れたエッセイでこう語っている。今手元に本がないから詳しい引用はできないが、「生きていれば10年に一度くらいは生きていてよかったと思う夜がある。そんな夜があればそれから10年どんなにひどい人生でも生きていける」とか、そういう文章。(追記)今発見したので書き写します。

めったにはない、何十年に一回くらいしかないかもしれないが、「生きていてよかった」と思う夜がある。一度でもそういうことがあれば、その思いだけがあれば、あとはゴミクズみたいな日々であっても生きていける。
                   中島らも「僕に踏まれた町と僕の踏まれた町」

この文章を胸にしまっていけば、どんなに今の人生がつまらなく思えても好きなことをして生きていこうという気になる。
 だからかもしれないけど、らもさんが亡くなったと知ったときのショックはほかの著名人の死に比べてひどかった。たしかに、大麻で捕まってもいたし、晩年はまたアルコールを飲み始めていたらしいから傍目から見ても長生きしなさそうな印象はあったのだろうし、本人もそんなに長生きはする気はなかったのかもしれない。でも、そんならもさんだからこそ100まで生きて、自分のボケさえもネタにするようなしたたかさを見せて、世間一般の常識とやらにアカンベをしてほしかったなって。合掌。

僕に踏まれた町と僕が踏まれた町 (集英社文庫)

僕に踏まれた町と僕が踏まれた町 (集英社文庫)