岡崎京子「私は貴兄のオモチャなの」
岡崎京子さんが1995年に発表した短編集で、フィールヤングという雑誌に掲載されたものを載せてます。
これ読んだとき高校1年生だったんだけど、漫画ってここまでできるんだってかなり衝撃受けた。そのまま映画になっちゃいそうなアングル。工夫された(引用が多いが)台詞回し、登場人物の心情描写、すべてが完璧で文学作品だ、と思った。今までいろんな表現に受けてきたけど、ショックを受けた度合いは岡崎京子とラーメンズが多い気がする。
今読んでもやっぱりすごいと思う。けど、何が好きかって、岡崎京子の登場人物に対する視線なんだろうな。あとがきでそういったのは直接的にわかるし、休筆前に出された中で唯一あとがきのない作品「リバーズエッジ」にも、あとがき代わりに書かれたノートからは登場人物に対する「愛」が見て取れる。あまりこの言葉使いたくないんだけどね。あまりにも抽象的過ぎるし。岡崎京子もこの言葉使うときはどことなく茶化しているような印象を受ける。それも、本気で茶化しているんじゃなくて、大事なものだからあまりマジになりすぎると危険だから茶化すとか、そんな感じ。
あと、2003年に岡崎京子の再評価が起こって、岡崎が時代の閉塞を描き出していただの、その時代の最先端だっただの説が多く唱えられいる。それは間違いじゃないけど、俺は、そういった言説もまづ、岡崎が優れたストーリーテラーだったっていう事実の元に基づくんじゃないか、と思う。確かに、一見するとスノビズムを感じさせるアイテムが作中には織り込まれているけれど、それはあくまでも「真理」をほかの人の表現で借りてきているだけであって、作品自体はわりとタイムレスに仕上がっていて、きっと10年20年先の人にもメッセージは伝わるし、この作品の持つ雰囲気に惹かれる人もいるだろう。音楽や映画に直接的な効能以外を求めている人だったらわかると思う。
この作品のなかで一番ハッピーエンドに近いと思うのは「虹の彼方に」だけど、それだってね、女性3人が繰り広げるドタバタ劇なわけだけど、不思議と安っぽさは感じない。主人公の花田はしっかり者で、ほかの二人の暴走を一身に受け止める側になっていて、結構ドライな印象を受ける。僕はしっかり者ではないけど、花田には共感できるのです。
「泣き方知んない 忘れた 泣けたらいいんだけど」
このシーンを見ると、きっと今岡崎さんがこの漫画を書いたらこのシーンにくるりの「ばらの花」をかぶせるんだろうなあ、と思う。
「でっかい恋のものがたり」はかなり後味の悪い終わり方だけど、一貫したテーマは感じるから少なくとも読むものには何か残る。それは恋愛の「愛」って何?ってことなんだけど、答えなんか出してなくて、問いかけとなっている作品だと思う。
表題作は、一番映画的。日本の夏の風景なんかも織り交ぜられていて、けど、主人公にのしかかる運命はあまりにもヘヴィで、っていう話。共感できない人もたくさんいると思う。けど、こういったあまりにも強烈な片思いと、それが歪んだ形で成就してしまう悲劇みたいなのを描いた作品で、墨字で描かれるホシの心情と相まって素晴らしい作品になっている。
ラストの「三つ数えろ」は、岡崎さんのイイ意味での趣味の悪さが爆発した怪作。タイトルはソニック・ユースの歌詞から。一言で言えば「ヤバイ」。おそらく、教訓は「教訓なんてない」ってことなんだろうな。衝撃作です。
俺にとって岡崎京子さんってのは、読んでた当時はこれが東京のイメージなんだって思ってて、今でも変わってないけど、東京ってのが決して流行だけじゃないってのもある。東京とか言うより、都会の孕む期待感とか、喧騒とか、さびしさとか、恐怖。そういったのを描いてくれている作家さんだ。
岡崎さんの作品はコンプリート近くまで集めたんでこれからもボチボチレビューしていきます。(95/100)
私は貴兄(あなた)のオモチャなの (フィールコミックスGOLD)
- 作者: 岡崎京子
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 1995/09
- メディア: コミック
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