スガシカオ「CLOVER」(1997)
シンガーソングライター・スガシカオのデビューアルバム。
スガシカオ、山崎まさよし、GRAPEVINE、この三組には、アロハプロダクション所属って以外にも、新曲を出せば10位から20位前後に入るといった売れ方が似ているという共通点がある。音楽性にしても、三組ともソウル、ブルース、R&Bと異なる音楽性を持つものの、どのジャンルも完全に日本のポップスに浸透していない中でうまく租借してポップスとして昇華しているという共通点がある。
で、スガシカオ。スガシカオといえば、ソウルを土台にした音作りが特徴的、それ以上に特徴的なのが歌詞。デビューした時点で31歳ってこともあってか、どこか諦念を感じさせつつも、最後には前に足を進める姿勢は、その辺の前向きソングよりも信頼が置ける。
このころのスガシカオのトレードマークは目深にかぶったシャッポ帽で、それもあってかどこか性格悪そうで、他人に心を開かない印象をもたれていた。また、年齢の関係もあるんだろうが、すでにかなり落ち着いた印象がある。それと、歌詞によく親について出てくるのは、彼が一時期ニートに近い生活をしてて、親に負い目があるようだということもあるのだろうか。そういったのも、日本人的で、僕としてはすごくいいと思う。
アルバム全体は、「本気でふてくされてはいないけどなれあいの方法論ってシラけるんだ」と、日常の閉塞、そしてそれを打ち破る意思を歌う「前人未到のハイジャンプ」で始まり、いかにもねちっこい言い回しの「ドキドキしちゃう」、やさしげな曲調にもかかわらず諦めを感じるアコースティックナンバ−「月とナイフ」、デビュー曲にしてシカオお得意の散々ねじくれた末のポジティブが描かれる「ヒットチャートをかけぬけろ」、ずるさを描いた歌詞にビートルズ風のコーラス「ドキュメント'97」、この人はもしかして性的に何かコンプレックスがあるんじゃなかろうかと勘ぐってしまう「イジメテミタイ」(杏子のコーラスがエロい)ときて、最後につじあやののカバーも有名な「黄金の月」。
このナンバーは、まるで70年代のソウルクラシックの名曲のようなイントロにのせて、大人になってしまったこと、そして、それを受け入れて歩を次へと進めることが描かれている。文句なしの名曲だ。
スガシカオって、山崎まさよしにも見られるんだけど、恋愛か応援か社会派かの選択肢しかない日本のヒットチャートの中で、一見すると普通のラブソングを歌ってる人なんだけど、それぞれ歌の話題にならないようなことまで歌にしてしまうという意味で、井上陽水チルドレンだと思う。シカオにはパンク性(コミュニケーションのしがらみ)が、まさやんには叙情性がそれぞれ継承されている。
このアルバムには、今までのポップスとは違うんだって言う、シーンを変えそうな雰囲気があふれている。まるでブルーハーツ、スピッツ、WEEZER、OASISのアルバムを聞いたとき感じたように。もしシカオの音楽がもっとロックよりだったら日本の音楽シーンは変わっていたんだろう。
総じて言うに、スガシカオの音楽は「大人」の音楽だと思う。「大人」という言葉、たいていの音楽では「純粋な存在である子供に対応する大人」か、「ムーディーな情景を描く存在としての大人」のどちらかの意味でしか描かれない中、シカオに音楽には両方の意味がある。
- アーティスト: スガシカオ
- 出版社/メーカー: キティ
- 発売日: 1997/09/03
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