OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

遠藤浩輝「遠藤浩輝短編集」

 遠藤浩輝が1998年に出版した短編集。全部で3篇収録。アフタヌーン掲載。続編が2002年に刊行されている。絵は写実的で、デコボコした感じ。
「カラスと少女とヤクザ」はまるで北野武の映画のような、乾いた世界観に暴力の要素が詰め込まれた、残酷なんだけどどっかメルヘンチックな感じのする作品。
「だから弱いものに生まれたからって悲しまなくてもいいんだよ」
 結局は弱肉強食の世界から抜け出せない主人公、抜け出した主人公と接する「外の世界」の少女はカラスに身をささげてる。結局、人間の世界も弱肉強食だとして、そのことに気づいたら弱いものはいつか強いものに食われるんじゃないかと恐れて暮らさなきゃならない。そんなジレンマにひょいとひとつの提言をする少女、この優しさは大きい。

「きっとかわいい女の子だから」は、何の変哲もない平凡な少女が、少しずつ狂い始めていくお話。けど、そんな狂うきっかけなんて、本当はそんなに大きなことじゃない。俺にだって、友人の裏切りで成就しなかった恋や、親の不仲でいやな思いをしたことくらいあります。なぜ、少女が狂ったのか。
 よくわからないけど、少女は性行為に対して不信感を持っていて、それで、性行為に結びつくようなことを否定していたかったんじゃないだろうか。だから、夭折した姉に対しての思いは並々ならぬものがあるんだろうし、最後の言葉が「初恋」についてだったんだろう。
 余談だが、タイトルはBLANKEY JET CITYの名曲「悪いひとたち」からで、また作中には「Girl」の歌詞が引用されていたりする。ブランキーにも、「クリスマスと黒いブーツ」や「ヴァニラ」なんかに性的なものへの抵抗感みたいなものが感じ取れたりする。それよりも、こうしてロックを他の文学と同列で引用する姿勢が、結構好きなんだ。

「神様なんて信じていない僕らのために」は、演劇サークルの話。一回生に2,3人くらいしかいないから、結構規模は小さいし、おそらくは定期公演もそんなに大きな会場は借りていないのだろう。別に会場の規模が問題なんじゃなくて、きっと大学のサークル風情が行う活動なんて、何の社会的影響も与えられない。そんなことはわかってる。けれど、もしかすると人一人くらいはそれを見て何かを感じ取る人もいるんだろうし、あるいは人生だって左右するかもしれない。そして、それはロックだの漫画だのもきっと同じこと。芸術活動って、結局サークルに終始するのかも。サークル=閉じられた円の中での活動。けれど、それによってDVを受けた過去だったり、兄弟を事故で亡くしてしまったことだったり、そういった過去を乗り越えること、はできるかもしれない。サークル連中との話は90パーセントが無意味なことだとは思うが、のこり10パーセントに真実が含まれているんだと思う。どんな考えだって間違いじゃない真実が。まあ、もうすぐサークルを半引退してしまう俺なのでそんなことを考えるのかもしれないけど。

 全体を通していえば、この人の作品の欠点は登場人物が突然ひとり語りをはじめてしまうところで、それゆえに変な宗教観がしてしまうのも事実。けど、結局は宗教なんて高尚なものでもなく、たんなる青さゆえの考えの発露に過ぎないと思う。だから、遠藤浩輝の作品はいろんな意味で痛いのは事実。だけど、目を背けられない。

遠藤浩輝短編集(1) (アフタヌーンKC)

遠藤浩輝短編集(1) (アフタヌーンKC)