OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

木更津キャッツアイ

 クドカンの通産3本目の連続ドラマ。TBSにて金曜10時から放送。2002年1月〜3月。
 クドカンの出世作であり、いわゆるクドカンスタイルを築きあげた作品といっても過言ではないでしょう。
 
 さて、(ドラマの)クドカン作品の主役として多くの人が思い浮かべるのが長瀬智也岡田准一であると思います。この二人は長瀬が池袋ウエストゲートパークで、岡田が当作品で主役を努めたのがクドカンファン・ジャニーズファンを含む多くの視聴者にクドカンドラマの主役像というのを印象付け、クドカンのみならず、長瀬、岡田、果ては大人計画所属の役者や森下愛子、薬師丸ひろこ、小日向文世、嶋大輔、妻夫木聡氣志團etc、数々の現在のドラマ・映画を支える人々の基点になったことは間違いありません。こうやってつらつら書いてみるとすげえな。
 さて、ドラマの型式としては、ぶっさん、バンビ、マスター、アニ、うっちーの5人で結成された「木更津キャッツアイ」がトラブルシューティング(という名の暇つぶし)を行い、その様子を前半で描き、後半にはそのトラブルシューティングが行われた裏でどのようなことがあったのかを描く、という、あまり連続ドラマには使われない手法が用いられています。
 
 この作品の魅力は全体的に漂う80年代の雰囲気だと思うのですが。まず氣志團というロックバンドの起用自体、80年代という時代へのリスペクト精神を考えたら当然のことでしょうし、氣志團が登場した第7回の演出を宮藤官九郎自身が担当していることからもその思い入れの強さが感じ取れます。

 2002年って、少しずつ80年代の再評価がはじまったじきだと思うんですね。海の向こうでのロックンロールリバイバル/ニューウェイブリバイバルが始まったのもこの時期ですし。当時ヒットしていたキンモクセイの「二人のアカボシ」という歌、この曲にこの時期の雰囲気って凝縮されている気がするんですよ。
 それで、どうしても現代を最先端で描かざるをえない東京ではなく、木更津という、東京からもちょうどいい距離であるがためにある程度文化の受容はできるものの、独自に文化が築ける場所を設定したのかなと思います。

 また、この話に出てくる主人公たちは、主に無職です。学生のバンビと喫茶店経営のマスターは違うかもしれませんが、喫茶店経営のマスターにせよ、社会人にありがちな闇雲な上昇志向、あるいは諦念とは無縁の人間であることは間違いありません。
 クドカンの最新作「吾輩は主婦である」を見ていても思うのですが、物語を進めるにあたって時に仕事って邪魔になります。したがって、仕事をもつ登場人物はある事件に巻き込まれなし崩しに仕事を休みます。しかし、このことは、仕事という場の連続性により彼(彼女)の日常が硬化するのを防ぐ働きがあります。だからこそ、仕事を持った人間にもこのストーリーが受け入れられるのです。
 そして、ぶっさん。ぶっさんは今の言葉で言えば「ニート」です。「ニート」という言葉が市民権を得て以来、「ニート」は「オタク」などと同様に珍獣をさす言葉とほぼ同意になりました。無論、「オタク」はともかく*1、「ニート」に関してはそういう扱いも仕方ないかなと思うのですが、物語を書く上で「ニート」って主人公にするのにいいんですよね。それは「キノの旅」の主人公・キノが職業を旅人にしているのと同じ理由で。
 余命半年と知りながら、自分のしたいことをしようと願い、けど元来の人の良さが災い(?)して回りに流されて、けど楽しい日常(非日常といったほうがいいかな)を送るぶっさんはニートである必然性があって、それは競争から解放された旅をしない旅人を描くという、今までにない試みだったのだろう。
 
 この作品を語る際で最後に語らなきゃいけないのは「死生観」だけど、それに関してはまた今度。
82/100

木更津キャッツアイ 5巻BOX [DVD]

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*1:僕は仕事を持った上できちんとそれによって儲けたお金を趣味に投資する人はカッコいいと思います