OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

東野圭吾「変身」

 東野作品。1993年発表。
 粗筋。強盗に狙撃された平凡な青年・成瀬純一は世界初の脳移植手術を受け、奇跡的に復活する。しかし、その日から、成瀬の内面に変化が現れ始める。自己が侵食されていく恐怖におびえた成瀬は、自分に移植されたドナーの持ち主を突き止めるが・・・。
 同様のテーマで新井素子が「今はもういないあたしへ」という小説を書いていて、そこでは結論を、まず個人の問題としてとらえ、すべてを台無しにするエンドに持っていっている。早い話が、体の大部分を移植された主人公はそのことが原因ではないにせよ自殺している。ものすごい後味の悪い話だ。
 実際に、自分が自分でなくなってしまうということは恐怖以外の何者でもないのだろう。今まで移植手術など受けたことのないぼくだが、その恐怖は、おそらく在るのだろうなと思いつつも、それに関して思いをめぐらせれば思考停止してしまう。そんな類の恐怖だ。
 さて、実際そうなった場合、選択肢は、自殺を除けば2つだ。ひとつは、別人格に肉体の主導権を渡すこと、もうひとつは、渡さないこと。
 小説的ハッピーエンドにするには後者だろう。廃人となっても自分は自分であることを続けるという一種の尊厳死だ。
 それを選んだ成瀬のラストは、ある意味感動的で、ある意味宗教的だ。
 さて、もし実際に脳移植が行われたらどうなるのだろう。おそらく、成瀬のラストを選べる人は少ないだろうな。まだ新しい選択肢を探さなくてはならないのかもしれない。
75/100

変身 (講談社文庫)

変身 (講談社文庫)