OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

台風倶楽部

 TAIFUが来てるよ。TAIFU。
 実家が沖縄で、先頭切って直撃したみたいだったから電話した。
 それと、これは木曜日のことなのだが、
 ぼくはその日西区へ映画を観に行っていた。石井隆監督の「ヌードの夜」。ユーモラスな台詞の掛け合いと、竹中直人余貴美子の好演が素晴らしい作品だったのだが、その余韻に浸りながら帰り道、自転車をこいでいた。
 空がやけに光っているのが見えた。どこかで花火でも打ち上げているのかなと思った。しかし、肝心の花火が見えない。
 雷だと気づいた。しかし、まあ気にすることもあるまいと自転車をこぎ続けた。しかし、だ。気がつくと人が少ないところに入り込んでしまった。雷はより高く、また早く移動するものに落ちやすい傾向があるという。さすがにというかなんなのか、ぼくは怖くなり一先ず避難することにした。1分間に1度くらいは光っていたし、いくら雷が人に落ちる可能性が何千分の1とはいえ、今日の雷は何千発も落ちている可能性があったから。
 雨宿りした場所は、戦後まもなくからあるんじゃねえのとも思われるくらい古びた小屋だった。あとで気づいたことだが、ここはホームメイドの製品を売る店で、わざとそういうつくりにしていた可能性が高い。きっと映画とか小説なら中から人のよさそうなおばあさんが出てきて家に入ることを薦めるんだろうなと思った。
 しかし現実は世知辛い。おばあさんは出てこない。そうこうしているうちに雨まで降り出して、しかも強くなってきた。やみそうもない。普通にそう思った。
 このとき、ぼくはなぜか、このまま死んじゃうんじゃないかと思った。日ごろ嫌なことがあるとすぐ死にたいなんて思うくせに、いざそういう機会に立ってみると臆病なもので、やっぱり死にたくないのである。とはいえ、じゃあ死ぬ間際に何をするかと言われても、おそらく何も浮かばない。
 で、どうしたかって。多分1時間くらいは雨宿りしていたと思う。1時間に思えただけで、本当は15分くらいだったのかもしれない。そのときにぼくが考えたのは、以前空港までタクシーを呼んだときの着信が携帯電話に残っていたので、とりあえずここの住所さえわかればタクシーが呼べる、ということだった。言い忘れていたが、このときぼくは海沿いに自転車をこいでいて、いつもとは違う路だったのでとりあえず家の方向に向かっているという以外は、何もわからなかった。
 それで一度外に出たけど、住所を示すものは何もなかったよ。それでちょっと出ただけなのに全身がびしょびしょになっちゃって、もう、どうでもいいやなんて思っちゃったんだね。家に帰ることにしたよ。
 大学に入りたての頃はよく突然の大雨に降られて全身を濡らしていたような気がする。いつからか、きちんと傘を持って出かけるようになって、徹底的に雨に濡れることはなくなった。それでいいのだろう。社会人になって、びしょ濡れのまま仕事をするわけにはいかないのだから。だけど、まだ雨に濡れることが許されているのなら、雨の中で遊べるのなら、遊んでもいいんじゃないか。
 とりあえず携帯電話をかばんに入っていたコンビニの袋の中に入れ、自転車をこぎ始めた。雷は全身が濡れている場合、万一人体に落ちたとしても表面だけを伝って地面に落ちるという話を聴いたことがあったから、きっと大丈夫だと思った。
 しばらく迷いつつも、すぐいつもの道に出た。ああ、天神の手前くらいだったんだ。家が近くなるとメガネをはずしてみた。光源が大きな輪になって見えて、綺麗で幻想的な風景だった。
 家に帰ってきた。台風情報を確認し、まだ本格的には上陸していないこと、上陸は週末になることを知った。週末にはなんか映画見ようかななんて考え、眠った。