OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

霧の中の風景

 アンゲロプロスといえば難解だという印象があります。
 ぼくもそう思っていました。だから一番上映時間が短いこのビデオを借りました。120分。
 個人的に長回しは好きなので、わりとサクサク見ることができました。
 これはいわゆるロードムービーですね。アテネにすむ姉弟がドイツにいるという父親に会いに無賃乗車やヒッチハイクなどを繰り返して旅をしていくわけですが、どうやら父親はドイツにいないということはかなり最初のほうでわかります。けど、なぜ2人は旅を続けるのか。きっと彼女らにとって旅は退屈な日常からの脱出という意味を持っていたのだと思います。書すら読まずに、物語だけを持って旅に出たわけです。
 そして彼女らは人々の善意に助けられながら、旅芸人の青年オレステと出会います。彼はバンで旅をし、行く先々で公演をおこないます。この辺、アンゲロプロスの他作品をみていないぼくには理解が追いつかなかったのですが、オレステの好青年っぷりがよいです。
 オレステと別れ、2人はヒッチハイクをしトラックの運転手に乗せてもらいますが、姉はここで強姦されてしまいます。
 ここまで割りと善意に満ちた展開を描いてきただけに、ここのショックは大きかったです。けど、先ほどちょいと引用した寺山修司は、家出をして働くことの重要性を説きつつも、その職業の選択肢の中に売春婦も含めているわけですよね。むろん、この際の強姦による処女喪失は決して肯定されるものではありませんが、家出(あるいは自立)に伴うリスクも描かなくてはならなかったのだと感じます。
 2人は運転手から逃げ、またもや無賃乗車した先で警察に捕まりそうになり逃げ、そして逃げついた先でオレステと再会します。2人はオレステの劇団の練習を見ますが、残念ながら劇団の公演は会場が借りられないため中止になります。オレステはこの後兵役につく運命が待っていました。
 2人はオレステと再び分かれることとなりますが、なぜかだだをこねる姉、実はオレステに自分でも言語化できない恋心を抱いていたのでした。
 オレステとともにしばらく旅を続けますが、ライブハウスでオレステが人を口説いているのをみて2人は逃げ出します。
 追ってきたオレステの前で、姉は泣き出してしまいます。それを受け止めるオレステ、ここはかなりの名場面だと思います。
 オレステと分かれた2人は電車に乗ってドイツに向かおうとしますが、お金がありません。そこで姉は、人のよさそうな兵隊を誘います。ここは、姉が人の荒波のなかで決断した瞬間だと思います。このときの迷いを表現した長回しは考えさせられます。
 兵隊は何も要求せず、お金だけ置いていきます。そして、ドイツに向かった2人はボートで一夜を過ごします。しかし、その2人に向かって放たれる番兵の銃声。
 解釈が分かれるラストシーンですが、やはり2人は死んでしまったのではないかと思います。しかし、これは単に2人が退屈を嫌い、新たな物語の中へ身を投じていった結果、淘汰されてしまったケースとしてしか扱われないのでしょうか。否、宗教的な意味合いさえ感じさせられるラストシーンでは、2人は殉教者のような神々しささえ感じさせられます。特に弟のたのもしさといったら。
 海の中から巨大な手がヘリコプターで引き上げられるシーンなど、エンターテイメント映画の文脈では読み取れないシーンもありますが、適度にヨーロッパの雰囲気にも浸りつつ、物語も追うような楽しみ方ができる、「名画」だと思います。