アンダーグラウンド
エミール・クストリッツァの問題作。1995年製作。
観る前は、戦中の思想のまま暮らし続けた人が長い時を経て外に出たときにどういう反応をするか、を描いたコメディ、だと思ったのね。たしかにそういう部分もあった。しかし、これはなんだろ?
まず日本では絶対作れない。アメリカでも作れないだろう。ただ、勝手に言うと「世にも奇妙な物語」の一篇、「戦争は終わった」(主演:林隆三)なんかはこれの影響を受けてるんじゃないかと思う。
ただね、絶対真似できないのは、日本にある「不謹慎」という精神性が邪魔をしているのだと思う。このバルカン気質は陽気というかなんなのか。賛否両論が巻き起こったそうだが、ぼくははっきりいえば「否」だ。普通だったらギャグにできないようなことまでギャグにしている。
終盤に、車椅子に乗ったかつての相棒が殺され火達磨になるのを見て悪漢風の男が泣くシーンがあるんですが、このシーン、ぼくはどうしても「ダウンタウンのごっつええ感じ」内のコント・カスタムひかるで松本人志ふんするヒーローが浜田雅功ふんする敵にやられて爆発して、頭だけがおもちゃのSLに乗ってレールの上をぐるぐる回るシーンというのを連想しました。こういう、どう反応していいかわからないシーンを見せられ、なんともいえない感情を抱いてしまうというのは、大林宣彦の「HOUSE」以来だった。ただ、「HOUSE」は善意、「アンダーグラウンド」は悪意という気がする。
それと、もうひとつ気になったシーンで、今度は中盤なのだけれど、前述の悪漢・クロが息子とともに、20年ぶりに地上の世界に出て川で遊ぶのだけれど、そのときクロの犯罪によって爆撃機で爆追されるシーン。このときクロは泳げない息子を放置し、爆撃機の狙撃に精を出すのだけれど、このときのクロの微妙な笑みが、怖い。この男は戦争の中でしか生きられない男なのだと思わせるに足る笑顔だ。退屈な反戦フィルムを見せるよりこのシーンを見せたほうが効果あると思うぞ。
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