OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

洋菓子店コアンドル(★★★☆☆)

2011/3/19鑑賞

@シネマパレット



 こういう「世間知らずで生意気な新入社員がその行動力で周りをひっかきまわすうちに現実の厳しさを知り、同時に周りもそれに動かされる」という作品は興味深く観ることができた。
 ただ、やはり尺が足りないな。
 連続ドラマとして作成すべき作品だったかもしれない。

 これだと、主人公が成長しきっていない。与える作用だけしか描いていない。
 ラストにニューヨークへ修行に出すことを勧められて終わるけれど、本当ならば一つ、晩さん会の後に蒼井優が自分のケーキを江口洋介戸田恵子、あるいは敵対した間柄だった江口のりこに食べさせて褒めてもらうepisodeが必要。まあ、最低限の努力描写はあったのだから、説得力としては及第点でしょう。



 あとねえ、蒼井優が海くんという彼氏(尾上寛之)との別れ話をするところ。
 はたから見てるとねえ、これ、どっちも悪いでしょうw
 まず、海くんは手紙で、しかもはっきりと「別れ」という言葉を使わないでぼかして、それで相手にわかってもらえるだろうという、責任を放棄した手紙を送りつけただけで別れが成立したと思ってはいけません。
 しかもこの海くんの様子が、「俺は全然悪くない」って感じなのがまたむかつきましたね。
 同い年で先輩の彼女ができていたけど、自分がバイトで技術的にはまだまだだということにきっと罪悪感を持たないでいられるタイプだから簡単につきあえたんだろうな。うらやましい。結局相手に対して誠実を尽くす対応よりも徹頭徹尾自分のことしか考えてないタイプのほうが恋愛がうまくいくという皮肉が見えた。
 ただ、この時の蒼井優の言い草からも、まあ、別れたくなるのも仕方ないかとは思ったんですよね。


 その江口のりこが演じていたマリコという役柄、これすごい苦手だった。
 戸田恵子江口洋介が、技術的にしっかりしていてかつリーダーとしてもすぐれているのに対し、彼女は、プロ意識も高いし技術も優れているのだろうけど、コミュニケーション能力が決定的に不足しているな、というか彼女も未熟なんでしょ、と思ってしまった。
 自分にしてみればマリコも成熟しているわけではないと思う。蒼井優はこの作品ではいわゆる新入社員なんだから、失敗も当然なわけ。
 いくら洋菓子店がシュラバだからといって、失敗をまったく許さないという雰囲気は新入社員の伸びしろを殺してしまう。
 そのことをマリコは全然わかっていない。早い話が、マリコは技術があるだけの蒼井優なんだよ。
 プロ意識高いというけど、実は職場に私情を持ち込んでるのはマリコも同様なんだよね。マリコは先輩として指導者として絶対やってはいけないことをいくつもやっている。技術があるから許されてるんだろうけど、でも俺は許せないなあ。戸田とか江口とか理想のロールモデルがあるでしょ。
 マリコは絶対人を使うことのできない人間だと思う。



 けれども、こういった同情に値しない人物描写を行った点は素直にほめたい。『食堂かたつむり』と違い、彼ら彼女らはきちんとその未熟さを描いたうえで、それでも監督は愛おしい視点を送り続けてくれているのだから。



 この映画観終わってしばらく経ったけれども、なぜかマリコのことばかり思いだす。つまり、自分にとって引っかかるポイントがマリコだったわけだ。



 ラストで黙って車を出ていくところの演出(鍵どうすんだというところは気になるけど)などはすごくよかった。



 ビルグドゥスロマンとしては欠点はあるけれども、人間の未熟さみたいなものをリアルに描いた点では好感が持てます。
 あとは、その未熟さを乗り越える過程を描き切ってカタルシスを観客に与えてくれれば、言うことなしでした。


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