うた魂♪('08/田中誠)
2011/6/9鑑賞
DVD
まず、そもそもの問題点。
合唱というのはそもそも映像化が難しい。理由は、華やかさがないため。
序盤でかすみ(夏帆)が「鮭の産卵みたい」と言われてショックを受けますが・・・。
合唱やってた人間から言わせてもらうと、あの顔は合唱として正しいです。
最初の時点で、主人公と反目する女の子たちが「かすみってチョーむかつくよね」みたいなことを言っていて、まあ、後に回収されるわけですけれども、この時点で彼女らの指摘は丸で見当違いなんですよ。
合唱がまるで北朝鮮のマスゲームみたいっていうのも合唱が構造的に孕んでいる問題ではありますが、確かに画一的な面はあるものの、合唱というのが実は人間社会の縮図で、決して画一化を目的としたものではないとか、そこまでの考察が本来は必要なんです。この問いに関しては結局映画内で結論は出ていません。ここはちょっと許せなかったです。
そこまでやれば合唱映画のマスターピースは生まれえます。
で、この映画では、その考察が浅いため、ラストに彼女らはコンクールで演奏に触れて改心するわけですけど、そこの論理がつながっていないんです!
あと、夏帆も正直ミスキャストと思いましたね。
夏帆って、『天然コケッコー』のような素朴な美人がすごく似合うじゃないですか。
だから、最初の高飛車キャラってどうしても演じているような気がしてしまいました。
後半の合唱コンクール会場にいそうな女の子にはぴったりはまっていたので、
この役なら例えば榮倉奈々あたりが似合っていたのではないでしょうか。夏帆の合唱部員的たたずまいも捨てがたいので、彼女は部長役が適切かと思われます。
あとはそもそもこのキャラ設定も、観客の共感を得にくいことから、失敗ではないかと思うんですね。
ゴリ達のヤンキー合唱団はあくまでも異物。
だって、あれは合唱じゃないんですから(笑)
ちょっとだけずらしているだけで、基本ユニゾンでしょ!あれ。
だから、合唱祭の時のステージは、全員が楽しんではいけない。ああいう風にやって評価されたら、今まで合唱真面目にやってきた人に失礼ですよ。
僕としてはあれはあれであってもいいと思っていますけど、決してコンクールのような場には出てはいけないものと思います。
かすみ(夏帆)はあれを聞いて心を動かされる必要があるが、例えば他の人は「何あれ野蛮」みたいなセリフを言わないと、片手落ち。
また、そこから続くゴリの説教シーン。あれはちょっとよかったです。
私たちがなぜ歌を歌うのか、という問いに対するひとつの答えになっていたので。
この映画の唯一よかったシーンと言ってもいいかもしれません。
ああ、それと、このシーンの前後に前述の反目する女の子たち出てきますけど、いくらなんでも性格悪過ぎでしょ。
で、その女の子(岩田さゆり)が実は歌が下手だったことを幼少期に笑われたからというのが理由と出てきますけれども、これ本当に逆恨みですよね。
明らかに罪と罰のバランス取れていないですよ。
で、岩田さゆりが恋のさやあてをするんですけど、そのあとのシーンで特にかすみがショックを受けている様子がない。あるけど、夏帆の演技力や物語の構成もあって、うまく伝わって来ない。
廊下を泣きそうな顔で歩いているだけであっさにすませちゃう。
結局、かすみの感情ってこの程度なんじゃないの、と邪推してしまいました。
その後、コンクール前までに仲直りしますけど、あそこ、ちょっと論理的におかしいなあと思いました。
全体的な欠点として話を進める内容をすべて言葉で説明しちゃっているというのがあります。
本当にひどいです。
間寛平のおじいちゃんの使い方もイマイチ。
あのおじいちゃんは、結局歌に何も関わって来ないじゃないですか。
かすみが唯一心を許せる相手であったのだ、とかそういった描写もないため、なんか腑に落ちないんですよね。
改心したかすみが後輩に指導するシーンで、あそこ何教えているかわかります?
特に合唱に接点のなかったみなさんに聞きたいんですけれども。
あそこ、「これ3連符じゃない?」って言ってますけど、コンクール常連校の部員が、本番近い時期に楽譜をちゃんと読みとれないことなんてあるんですか?
あと、あの夏帆の指導内容だと、あれはむしろ二拍三連じゃないかと思うんですが。
そもそも、まったく合唱に接点がなかった人だと、「三連符」という言葉すらわかるか疑問ですよ。
だからあそこは、「正しく歌おうとするあまりに緊張しちゃってカチカチになっている後輩に、リラックスの方法を教える」あるいは「気合で歌うことを教える」場面であるべきなんですよ。
そしたらゴリの説教ともつながってきます。
あとは、コンクールのシーン。
まずさ、ともさかりえのAD。何のために出てきたの?ちょっと薬師丸ひろ子演じる顧問教師の役割と被るところありますし。
あと、ワゴン車から降りて霧吹きをシュッってやりまくる場面ありますよね。
あれは、乾燥を防止するためにやるので、屋外でやっても意味ないですよ。
確かにちょっと冗談くらいでやることはありますけれど、だったらちょっとじゃれあうくらいの描写いれてもいいでしょ。
あと、ゴリたちの高校のエピソードも、「そりゃ出場できないよな」と誰しもが思ったと思います。
むしろ、ゴリたちの合唱スタンスはコンクールとは相いれないものだ、と前面に出してもよかったと思いますよ。
例えば、老人ホームとかへの訪問演奏を中心にして活動しているとか。
それで、コンクールに出ることの意義を改めて考えた結果、それでもコンクールに出て、楽しく歌う方を選ぶ。
これ、すごく合唱あるあるになるんですよ。
それに、解決法もイマイチ納得できませんでしたし。
ラストの演奏シーンですべての問題が解決されてしまっているため緊迫感がない。
合唱やっていた人間が言うのもなんですが、結局合唱単体ではパフォーマンスとしての華やかさにかけるため、すでにドラマの推進力を失っている状態で聴かされると、合唱に興味のある人以外は眠くなる・・・。
ただねえ、あの、自意識過剰な女の子がその自意識過剰さあまりに孤立して、パートリーダーをおろされるっていうのは、自分にも近い経験あるだけに、ちょっと見ていてつらかったですよ。
あくまでも合唱と言うのはマクガフィンにとどまっているのですが、それでも合唱をやってきた人間にとっては、ちょっとくるものがありました。
そもそも、あのコンクール会場の雰囲気だけでも何とも言えないものがあります。
だから、今後生まれるべき合唱映画のマスターピースのための踏み石になってほしいと思います。
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