OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

婚前特急(★★★★☆)

2011/6/18鑑賞

桜坂劇場



 僕はこの映画にはオチはいらなかったんじゃないかと思う。
 すごく期待していた。僕が日本映画に期待するものがここにあった。
 だからこそ、『さんかく』のような日本映画特有の余韻を残す終わり方をしてほしかった。

 キャスティングは全員が合っているんじゃないかと思う。
 特にさ、加瀬亮さんのあの女性にだらしなさそうな感じ。本当にだらしない人ってあんな顔してるわ。

 脚本も素晴らしい。観客がこのキャラクター殴りてえと思った1分後には殴ってくれてる感じがする。
 
 この映画はいいところが本当に多すぎるため、もう一回観たい!

 つまりさ、チエという女性は「恋愛」というコミュニケーション能力やらエゴイズムやらを駆使して成りあがるピラミッドの、頂点とは言わないまでも第2〜3階層くらいにはいる女性なわけです。
 個人的には、僕はこういった場での「恋愛」はあくまでもカッコつきで語られるもの、すなわち、本当の恋愛じゃないとおもいます。
 チエというキャラクターはトシコ(杏)のできちゃった結婚にせっつかれるかたちで、結婚をすべく彼氏たちの査定を始めるわけです。



〜ちょっと横道〜


 どうでもいいけれど、吉高由里子と杏が並んでいるシーンを観ると、ちょっとだけ吉高由里子がかわいそうになる。
 全体的に、並んでいて違和感があるというのをうまく効果的に使っているのも面白い演出だと思いました。
 吉高由里子と浜野謙太が並んでいるシーンも違和感があるし、それ以上に違和感があるのは浜野謙太が石橋杏奈が並んでいるところ。身長が同じなのに顔の大きさが全然違っていてわらけてくる。


 あとは、杏の結婚式が唐突に挟み込まれる感じもすごい。
 結婚式がさほど壮大じゃない様子がすごくリアルだった。
 あと、このキャラクターって吉高由里子のパブリックイメージをうまく用いていると思うんだけど、それ準拠で行くと
チエにはトシコという或る意味お守り的な友人以外には、女性友達はいないはずなんです。
 それを、ちょっと離れたところに立っていたりとか、ブーケトスの際に一瞬だけ焦点のあっていない女性たちの顔を映すなど、最低限わかるでしょと観客を信頼した演出でみせてくれたのが見事でした。


 話を戻す。
 ここで面白いのは、チエは終盤である行動を起こし、その後にトシコに対し「2人を見てると、本当の相手って気がする」というセリフを発するまで、一貫して結婚願望を否定し続けていること。また、本来の(無意識裡な)願望とは裏腹の言葉を発しており、そのことを観客を含める周囲の人間はみんな知っていること。
 ここはどこかしら『マイレージ・マイライフ』を連想させる。
 つまり、トシコはここでカッコつきではない恋愛を手にしている存在(実はここにもちょっと疑問があるが)であり、チエはそれ以外のすべてを持っている存在である、ということをここで初めて気づくわけです。



 あとね、ここに出てくる人物は、トシコ夫妻以外はどこかしら欠点があるし、その欠点は決して小さくない。
 でもねー、欠点があって、男としてというより人間としてダメだろ、みたいな欠点がある人でも相手がいたりするわけでしょ。
 その不可解さを描くのが実に誠実だと感じた。或る意味あのノートはそのネタバラシみたいなものでしょ。
 丁度昨日読んだ『ゴールデンスランバー』にあった、付き合う人ごとにいいカードが来るのを待っているという描写があった。

 
 この映画をみる前(予告編とか観てた段階)、チエは「恋愛」ピラミッドの最上層の住人だと思ってたわけね。
 けれども、改めて見るとむしろなんだろ。2年前にハマケンに捕まった際も、他の女性がハマケンに目もくれない一方で・・・、みたいなところがあるし、結構ね、押しに弱いというか、断れない、流される、ほだされる的な、人の良さが透けて見えたのが印象的だった。



 あと、ハマケンのキャラもねー。
 全然ルックス良くないのに自信だけはあって、アホで、浅薄で、少なくともこの映画を観る限り、いいところなんて一つもみつけられないのね。
 映画『さんかく』ではタイトルに三角関係という意味のほかに、人間って×でも○でもなくいいところもわるいところもあって△くらいなんだよ、って意味があるけれど。
 ハマケンって結構×入っちゃってね?
 或る意味さ、このキャラクターの善い処って、悪人ではないってところなんだよ。
 何事にも真面目ではないし、考えも足りない。つまり、一緒にいて「楽」。
 そこがね。
 本来こういった人間は嫌いなはずなのに、そしてラストまで観て印象がひっくり返るわけでもないのに、なぜか愛着を感じさせてくれるのはうまいと思った。

 
 で、そのほかの「△」な男性たち。
?大学生→運転中の自己中なところ
?道楽息子→趣味につき合わせる。
?妻子持ちの上司→いざというとき頼りにならない
?加瀬亮→?



 つまりさ、「恋愛」における苦しみってさ、自己中心的な相手に合わせて疲れてしまうところにある。
 個人が個人でありつつ、他人と良好な関係を築いていくことの難しさをこれでもかって描いている。これを描くためには正直、映画としての形式なんて破っちゃっていいと思う!(だからこの映画にオチはいらないと思った)



 終盤、チエはハマケンの家に行くわけですが、僕はこのあたりで終わってしまってもよかったんじゃないかと思います。
 ハマケン宅での喧嘩以降は、或る意味マジックリアリズム的展開といってもいいですよね。
 あの老婆(吉行和子)は一種のデウス・エクス・マキナですから。
 それから、ハマケンは或る行動に出て、チエと結ばれるわけですが、あれもちょっとねえ。
 あの結婚式、できちゃった結婚した人の式ってこんな感じで低予算だよなあなんて思えてきた。
 それから、なんだろ、あれは、「みんなありがとー!」って言って、ロマンスカーみたいなのに乗って後にするでしょ。
 あのあたり、やっぱり幻なんじゃないかと思うよ。4人の彼氏が揃っているところとか、かなりファンタジーよね。

 この辺りをみる限り、もっと余韻残して終わってもよかったよなー、なんて思えてきてしまうわけです。
 あとねえ、脚本として褒めるべき点として、一回も「セフレ」という言葉を遣わなかったところは、素直にすごいと思った。



追記
 この池上チエ(吉高由里子)を実写版『モテキ』の世界に投げ込んだら面白いんじゃないかと思った。
 ハマケン繋がりかもしれないけど。あのドラマでは不憫な扱いだったハマケンがこの映画ではいい思いをしているのも面白いですな。

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