OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 勝どき橋を封鎖せよ!(★★☆☆☆)

2011/9/4鑑賞

@サザンプレックス



 序盤は面白くなりそうだと感じたけれど、後半になって説明臭さが前面に出てきてしまったため失敗した感あり。
 いわゆる「男はつらいよ」的な展開と、誘拐事件に関する展開のつなげ方がひどいと感じた。エンドクレジットを観ると案の定、脚本家が3人いた。
 ただ、どうしても評価しておかなくてはいけないポイントがある。

 面白くなりそうだと感じたのは、「男はつらいよ」シリーズでいうところのマドンナにあたる女性が現れたくだり。
 2011年の日本において、人情味あふれる喜劇の舞台たりえるのは浅草しかありえないし、「男はつらいよ」シリーズのファンとしてはうれしかった。
 実際、この部分では細かなエピソードの積み重ねで両津勘吉という人物の「ダメだけど魅力的な大人」という人間像を描きだしていると思う。マドンナにあたる沢村桃子(深田恭子)のセリフ「勘吉くん、制服似合うね」という言葉にこめられた意味の使い方などうまいと感じた。

 ただ、実は寅さんと両さんには大きな違いがある。
 どちらも粗野な性格をしており、人様に迷惑をかけることも多々ある。しかし、寅さんにあって両さんに無いもの、それは悔悛の情だ。
男はつらいよ」シリーズはいつもマドンナに失恋した寅さんが浅草を去り、旅先からの手紙が読まれて終わる。そこで丁寧な言葉で語られるのは今回の恋の顛末において周囲の人に迷惑をかけたこと、さらには自身が恥をかいたことにかかる申し訳なさだ。
 さて、両さんはどうだろう。そもそも原作の「こち亀」において両さんは恋愛と距離を置いたキャラクターとして描かれているが、一つだけ言えるのは両さんに「反省」のふた文字は無いということだ。
 自己評価というものは他己評価(別にタコ社長の評価ではない)に直結する。
 寅さんが旅暮らしをしなければならないのは自らに対する反省の情から身の置き場がないからだ。それに対して、悪事のレベルは寅さんの比にならないにしても、反省を知らない両さんには「亀有」という、彼を受け入れてくれる場が常に存在する。
 だから両さんは亀有を去る桃子に対してあのセリフを言うのだ。

 そのほかには、今回のマドンナにあたる女性が旅芸人という設定で、旅暮らしをしているというのは面白いと感じた。つまり『男はつらいよ』と役割が逆になっているわけだ。この女性との結婚を考えた両さんが決断しようとすることは、『男はつらいよ 望郷篇』(’70)で寅次郎がとった決断とは真逆のことといっていい。
 ここが、両さんと寅さんの違いが明確になる場面である。
 改めて振り返ると、寅さんに最も似合っていたマドンナが旅暮らしの歌手であるリリー(浅丘ルリ子)であったように、両さんに最も似合いのマドンナは亀有という街で生まれ暮らす女性でなくてはならないのだろうな、と感じた。