源氏物語〜千年の謎〜(★★★☆☆)
2011/12/23鑑賞
@シネマQ
思いのほか楽しめた。これは一種のトンデモ映画だと思う。
まず、平安時代の世界観の再現が気にいった。リアリズム嗜好というわけではなく、どことなく非現実めいた感じがよかった。言葉遣いなど、上品に表を取り繕って下世話な話を語る構造も見事。
あと、例えば室井滋演じるキャラクターなど狙った笑いもあるのだけれど、製作者も意図していないだろう笑いのポイントがいくつかあったのが印象的。序盤の紫式部(中谷美紀)が藤原道長(東山紀之)から逃げるところで道長が十二単をふんづけるところや、葵の君(多部未華子)の顔芸によるところ、あと、これは狙ったのかもしれないが六条御息所を演じる田中麗奈の演技はかなり過剰で、CGの効果もあいまってかなりの笑いを産んでいたように思う。
また、こういったトンデモポイントもさることながら、例えば物語を語るという行為が持つ影響力のよい面と悪い面であったり、『ノルウェイの森』(村上春樹)のワタナベ君を思わせる光源氏の無意識的なプレイボーイ行動が起こす悲劇など、興味深く観ることができた。じっさい、『源氏物語』と『ノルウェイの森』には共通点が多い。
それから、原作者の高山由紀子は紫式部が『源氏物語』を書いた理由に関して、女性からの一種のSucker Punch(不意打ち)だと考えていたのかもしれないなと思った。この物語の中心人物はなんといっても嫉妬により呪いの力まで生みだす六条御息所であり、彼女の存在により安部晴明(窪塚洋介)はフィクションと現実の間まで行き来する。彼女の役割は、すべてを兼ね備えていたがゆえに挫折を知ることのない男たち(道長、光源氏)に挫折を味あわせることである。また、彼らがどれだけ挫折を経ても内面が磨かれていないように描かれていたのも興味深かった。
『ノルウェイの森』のワタナベ君も挫折や喪失を経たものの結局彼自身は何も変わってないからね。