OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ(★★★★★)

2012/1/7

桜坂劇場Cホール(初日初回)




 覆面アーティスト・バンクシー監督のストリートアートに関するドキュメンタリー映画。



 僕は事前に一行目に書いたこと以上の前情報を入れずに行ったのだけれど、すごくガツンとくるものがあった。

 要は、本物とは何か?ということに関する問いだ。

 簡単に言えば、この話は黎明期にあったあるカルチャーが飽和状態を向かえ、そして衰退に向かう決定的な出来事に遭遇するまでを描く。ここまでのお話が実に出来すぎていて、僕は正直このドキュメンタリーの真実性を疑わざるを得ない。とりあえず、ドキュメンタリーに描かれていることが本当にあったものだとして、語る。

 たとえば、通常のドキュメンタリーだったら、どうしても当事者の思い入れというか懐古感というものが強くなって、若干同窓会めいたところになるのだが、この映画はある種の物語性をもってそれを回避しているように思う。付け加えるなら、この映画が面白いのは、結局このシーンがまだ終わりきっていないからだと思う。



※以下ネタバレ






 

 前半はティエリーというビデオカメラ狂の男がストリートアートの撮影に魅了され、シーンの熱狂を納めていくさまを描く。ふつうのドキュメンタリーだったらここだけでも完結するだろう。

 予断だが、このティエリーという男のエクストリームさが実によかった。いつも落ち着かなくて貧乏ゆすりをしていて、「ああ、こいつはフェイクだな」と観客に思わせるに足るものだ。たとえば、『ハングオーバー』シリーズで見せるザック・ガリフィアナキスとか、あと『ペルシア猫を誰も知らない』(’09)に出てきたナデルという男に通じるものがある。

 さて、一本の衝撃映像を境に映画は急変する。

 その映像とは、ティエリーの才能のなさを見せ付けるものだ。

 ここで前半と後半を区切ってもいいだろう。ティエリーがMBW(ミスター・ブレインウォッシュ)に変化する瞬間だ。

 ここまでの流れで観客はMBWの才能のなさを思い知っている。MBWの作品について僕が考えることを述べると、彼の作品は瞬発性はあると思うが、底が浅く思想を欠いているため、長時間その作品に触れているとどうも胃もたれする割に何も残らないような印象を受けてしまう。早く言えば、ニコニコ動画とかで見られるMAD動画レベルなのかなー、と思ったり。

 そして彼は散々な状況で個展を開くも、なんとこれが成功してしまう!

 彼の成功を目の当たりにして、バンクシーを初めとするストリートアーティストたちは絶句せざるを得ない。なんせ、彼らが長い時間をかけて築きあげてきたものを一夜にして、しかも誰もなしえなかったものを手に入れてしまったのだから。

 彼の成功はつまり、大衆の見る目のなさを表しているのだ!



 と、決め付けてしまうには早計だ。



 まず、ここまでバンクシーのミスリードがある可能性を常に考えておかねばならない。

 現代アートに詳しくない僕にとって、MBWの作品にそんなに価値はないのかなー、と思いつつも、じゃあバンクシーたちの作品は違うのか?と問われてうんと素直に答えられる気はしない。確かに前半に出てきたストリートアートの数々は刺激的だった。けれども、どういった点が刺激的だったのかは答えられない。なんせ、この映画は「バンクシー監督作品」なのだから。この点を疑わないことには、僕だって君だって愚かな大衆に過ぎないことになってしまうぜ。



 ついでに言うなら、明らかに触法行為であり簡単に消えてしまうストリートアートがサザビーズなどで競売にかけられた時点で、本来のストリートアートの精神に陰りが見え始めたといってもいいだろう。奇しくもそれは、消え去ることを美徳としていた世界に、記録する者(=ティエリー)が入ってきた時期と重なり、結果的には彼によってとどめを刺されるという点に、皮肉を感じてしまう。このあたりがちょっと出来すぎに感じてしまうのだけれども。

 才能のある人たちが表現活動を初め、一般に認められ始めたところでフェイクの表現者たちが参入しフェイクの作品を作り出す。そちらの方が一般に受け入れられはじめ、その文化は衰退する。そんな流れがよく表現できていた。

 いくらなんでも出来すぎでしょー。これってモキュメンタリーなんじゃないと考えながら見ていたら、ラストで多くの人が目にしたことのあるであろうマドンナのジャケットが写り、結局僕らだってそんなフェイクを嬉々として教授している人間なんじゃないかと思わせる。

 実に耳の痛い話だと思った。



 結局のところ、享受する側としては自分に審美眼に常に疑いを持たねばならないなと、改めて実感しました。

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