指輪をはめたい(★★★★★)
『指輪をはめたい』('11/岩田ユキ)の魅力について語るとき、どうしてもネタバレを避けられない。
宣伝では『モテキ』('11)のような作品と捉えられる可能性が高いが、この作品は実は主人公が失恋から立ち直るまでの話だ。
あらすじは以下の通り。
製薬会社に勤める主人公・片山輝彦(山田孝之)はある日頭をぶつけて病院に運ばれる。記憶をなくした彼は鞄に結婚指輪が入っているのに気づく。するとそこへ三人の女性(小西真奈美、真木よう子、池脇千鶴)が現れる。主人公は記憶をなくしたときにいたスケートリンクで出会った少女(二階堂ふみ)に相談し、本当の花嫁を探し始めるが・・・。
※ネタバレします
非常にファンタジックな演出が多用される。クドカンや中島哲也など小ネタの時代を経た今では珍しくないため、こういった作家性だと思い油断していた。
なぜこれだけファンタジックなのか。それは、この世界が主人公の妄想をおおいに含んだものだから。
たとえば、『チェイシング・エイミー』('97)が監督自身の過去の恋愛の決着を過去の交際相手当人を遣って行ったように。たとえば、『(500)日のサマー』('09)が脚本家自身の実体験を基にした話で、時系列がばらばらに描かれるように。過去の恋愛を克服する作業(すなわち、「喪の作業」)には、振り返る者の「編集」が加えられる。
可愛い女性とつきあって昔の彼女に自慢したい、とか、ひどい態度をとったことを謝りたい、とか、そういった、恋愛で傷ついた経験のある者なら誰しもが思い当たる願望を映像化したのがこの作品世界。
それは、はっきり言って主人公に都合のいいものなのかもしれない。
ここで断言してしまおう。
「喪の作業」とは、関係を成し遂げられなかった者との思い出を自分に都合よく編集することで希望を持とうとする行為である。
そのため、どうしてもそれは独善的な性格を持ち、相手方の本意とは異なる可能性も出てくる。
だが、それを不誠実だと言って非難する気にはどうしてもなれない。
遺された者が未来へ進んでいくにあたって、必ず必要な行為に思えるからだ。
終盤のスケートリンクに映し出される三人の女性との思い出。
確かに主人公のした行為は最低だったかもしれない。
けれども、確かに彼女たちに、一時的にではあれ笑顔を与えていた。
それでよかったんだ、きっと。
ぼくはこのシーンを観たときに、過去の哀しい恋愛の思い出が浄化されていくのを感じた。
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『監督失格』で平野監督が、「どうしてもこのシーンが最後になってしまう」といっていたのは、林由実香と平野監督のこの会話だった。
「幸せですか?」
「うん、幸せです。」
「ほんと?」
「うん、ホントだよ。」