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OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

卒業('67/マイク・ニコルズ)


正しい童貞映画として



2012/5/18鑑賞

@シネマパレット


原題:The Graduate

1967年・米/監督:マイク・ニコルズ/脚本:バック・ヘンリー&カルダー・ウィリンガム/出演:ダスティン・ホフマンキャサリン・ロスアン・バンクロフト



 例えば最近のジャド・アパトー関連作品にあるように、童貞男子間のホモ・ソーシャルな関係性は、ある種の理想郷みたいに描かれることが多いように思う。

 もちろん、僕もそれを観てかつて過ぎ去った青春時代に思いを馳せることもある。

 けれども、実はそれはあくまでも「理想郷」であり、実は本当に救済を必要としている人、すなわち、ネットスラングで「ぼっち」と呼ばれるような人にとっての真の救済足りえないんじゃないかということ。



 さて、『40歳の童貞男』('05)以降、こういったホモ・ソーシャル感は善きものとして消費される向きが日本でもできた。そのムーブメントはみうらじゅんの功績が大きい、というよりも功罪がある。僕はちょっとみうらじゅんは「D.T.」だの「文化系」だのの言葉の使い方が鼻について、その言葉を使えば使うほどそうでない者たちとの溝は深まるぞという考え方をとっている。が、ここではあえて使わせてもらう。



 そのみうらじゅんはかつて自著でこう語った。「ダスティン・ホフマンは70年代を代表する童貞俳優である」と。



 その観点から『卒業』を観ると、確かにダスティン・ホフマン演じるベンジャミンの常軌を逸した行動というか、他者の目線を気に掛けずにはいられないところ、つい見栄を張ってしまうところ、そして、結局のところ他人の気持ちをくんで行動することができないところなど、随所随所に童貞感が漂う。ただし、それは近年の映画に出てくる美化されたそれではない。

 また、この映画にはただの一人も、ベンジャミンの同世代の友人が出てこない。後半になり彼はとんでもない行動をとるわけだけれども、きっと彼に忠告を与える友人がいたらそんな行動には出なかったはずだ。そうするとあの有名なエンディングもなかったかもしれない。



 また、久々に観て気がついたのが、以前までそんなに印象が強くなかったロビンソン夫人(アン・バンクロフト)の感情が、とてもよく伝わってくるということだ。単にアメリカのホームドラマに対するアンチテーゼではなく、充足した生活の中で愛を見失った彼女がそれを求めたのが、まだ愛されることを知らないベンジャミンだったのだということが彼女の表情から伝わってきた。実際に、ラストに登場するエンドロールにおいてトップに置かれるのはアン・バンクロフトの名前だ。

 これは、この作品が体制に対するアンチテーゼという体をなしているものの、想像力を欠いた反抗のむなしさや、若者から突き上げられつつも保守的にならざるを得ない親たちの世代の哀愁であるとか、そういったものを内包した奥行きのある作品となっている。



 ヒロインとされるエレイン(キャサリン・ロス)の登場は映画も後半になってからだ。

 彼女への愛を知り彼は極端な行動に出るわけだが、実はこれは通過儀礼たりえてない。

 まず、エレインへの求愛は彼が物語の最初に抱えていた葛藤、すなわち、「何になりたいかはわからないけれども、何か違うものになりたい」という欲求に応えるものではない。恋愛を職業にすることはできないのだから。そして彼は物語中で童貞は捨てたかもしれないが、精神的な童貞は捨てていない。彼は例えば前半のロビンソン夫人とのベッドシーンで見せた利己的な性格は決して直ってはいない。だから本当は彼はハッピーエンドを享受する資格がないのだ。

 ただ、こうも考えることができる。

 ロビンソン夫人は、主人公が道を踏み外すきっかけになった存在であり、一種のアニマということができる。ここが重要で、ロビンソン夫人はつまるところ親たちの世代、つまり体制側の人間である。成長をしようとしても、それすらも体制側に組み込まれてしまうため、どこに楯ついていいのかわからない。それがベンジャミンの世代の抱える煩悶だった。

 で、実はエレインとの関係性も、ベンジャミンの両親から彼女をデートに誘うように言われて始まったことである。そして彼はエレインを親からプレゼントしてもらった車でデートに誘い、ストリップバーに行く。このストリップバーは、彼の両親へのささやかな反抗を意味する。

 そして、その両親への反抗心は、エレインの中にもある。

 だから、飛躍的に思える後半の心境の変化も、結婚式の場面で彼女がロビンソン夫人に放った言葉により、観客にその意図が提示されると言ってもいい。



 教会での有名なあのシーンにより、反抗それ時代は完遂したのだ。教会の扉を十字架で閉めるところなど、その演出的美しさといったらどうだろう。



 だが、前述したように、本当に彼は「違う何者か」になれたのか?

 行動力をもって彼の行く末を祝福するか、愚かさをもって彼の行く末を不安に思うか。



 バスの中におけるベンジャミンとエレインの表情の変化はよく語り口となるが、僕はどちらにも受け止められるように思えた。

 けれども、心境的には、ひどい話だが、やはりうまくいかないんじゃないかと思った。

 きっと、これが今の僕がベンジャミンに残る幼い反抗性に投影している自分だ。





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