鹿島田夏希『冥土めぐり』は現代の『斜陽』かもしれない
遅ればせながら芥川賞受賞作『冥土めぐり』を読みました。
最初は「大丈夫か?この小説」と思った。イ・チャンドン監督『オアシス』('02)を連想させる設定ではあるものの、障碍者に美徳を重ねるのは陳腐になりかねないし、母や弟のキャラクターも類型的な印象があった。
ただ、やはり現代にこのテーマを選んだということは素晴らしいと思うんですね。
最初はタイトルも相まってダークな雰囲気で始まるものの、主人公・奈津子の背景が明らかになるにつれ描かれている情景が読者の中で変容を遂げ、不思議な多幸感を呼び起こす。かなり傑作だと思います。
手法として特筆しておきたいのが、回想シーンの使い方の巧さ。回想に入り、出るタイミングとそのシーンにおける現状との対比が実に効果的だった。
惜しむらくは、物語の主題や、それに連なる人物設定などをストレートに文章で表現してしまっているところ。テーマ性が強いだけに、ちょっと鬱陶しく感じる部分もあった。
ただ、確実に一読の価値あり!