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OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

横道世之介(★★★★☆)


 ヨノスケ・ヨコミチ/一期一会


2013/5/16鑑賞

桜坂劇場


 吉田修一原作の青春小説を『南極料理人』などで知られる沖田修一監督が映画化。

 原作既読の状態で鑑賞。

 映画とはそれを思い出している時こそが重要と言うが、この作品がまさにそうで、最初読んだ時はストーリー性も薄いので、少なくとも直後の印象はあまりよくなかった。

 ただ、読み終わって何日か経ったあとで、まるで横道世之介と過ごした日々が実際にあったかのようにありありと思い出されてくる。そういった状態での鑑賞だったので、とにかく至福の時間だった。

 ので、最初に言っておきたいのは、この映画は観終わった時だけの印象で評価を決定しないでほしいということ。観終わって1日後でも3日後でも1カ月後でも、何年後でも、ある日突然浮上してくる日がくるはずだから。



 基本的には原作に忠実に映像化されている。先に原作を読んでいる身としては「なるほどー、ここを省略したか」といろいろ感嘆したが、原作未読の方には説明を省いた部分についてわかりにくくなっているのではないかという危惧もある。この辺、未読で鑑賞した方の感想を聞いてみたい。



 映画の作りとしては『フォレスト・ガンプ/一期一会』('94)に近いかなと思ったんですね。ただ、あの映画はアメリカの歴史分岐点に居合わせたのがいわゆる知的障害者であるというところに、若干ロバート・ゼメキスの政治的なスタンスが見てとれるのですが、一方『横道世之介』はそういった点は皆無。

 要は、横道世之介という人物が様々な人物にとっての人生の分岐点に居合わせた、その様子が描かれます。ただ、世之介がほかの人を叱咤したりとかそういった展開はなく、影響を受けたのかなというのが知覚される直前くらいのところまでしかドラマは進みません。その点で、語り手が複数いる『スタンド・バイ・ミー』('86)と言ってもいいかもしれない。これちょっとネタバレかな?

 ともかく、ここがリアルだなーと感じた。誰しも人生の選択をする場面はあるわけだけれども、それを決めるのは結局自分自身である。ただ、自分ひとりで決めたわけではなく、経験した出来事がずっと頭の片隅に眠っていて、それがある日起きてきて自分の人生を動かすとか、そういったものなのかもしれない。そんな気がしたからだ。



 それ以外だと、役者陣も見事。特に、世之介のガールフレンドでありお嬢様の与謝野祥子役の吉高由里子は出色。「ハハハハハハハ」「世之介さ〜ん」といった台詞が頭から離れない。ほかには、主人公の世之介演じる高良健吾がいいのはもちろん、綾野剛の演技もよかったなあ。そういえば、ライムスター宇多丸のシネマハスラーで世之介について主人公的な人物ではないと言っていたが、この点、どちらかというとバイプレイヤーとしての活動が目立つ高良に重なるのかもしれない。

 

 ただ、僕はもちろん世之介に好感を抱いているわけだけれども、例えば『サニー 永遠の仲間たち』('11)におけるサンミみたいに、世之介をよく思わない人物がいたほうが世界観に広がりが出た気がする。

 というのも、観る前にぼくは世之介は自分に似ていると思ったんだよね。ただ、世之介には屈託や卑屈な劣等感はない。ポスターなどで太陽の被りものをしているが、まさに太陽みたいな人物であり、基本的には、そりゃどんな人にも好かれるんだよね。

 それはむしろ世之介が特別な人物だという印象を与えかねない。だから、彼の空気の読めなさや、あるいは純粋さを受け入れられない人物を設定した方がより多くを内包する作品になったと思う。

 

 ただし、そんなことは瑣末な点なので。青春映画の傑作と言っても遜色ないこの映画を見て、どうか世之介と友達になってほしいと思う