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OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

旅立ちの島唄〜十五の春〜(★★★★★)


小津安二郎『晩春』の沖縄版アップデート

Seventeen」専属モデルでアイドルグループ「さくら学院」のメンバーとしても活躍した若手女優・三吉彩花の映画初主演作。沖縄本島から東へ360キロ離れた南大東島には高校がなく、中学を卒業して進学する若者は、必ず島を出てひとり立ちしていく。島唄グループでリーダーを務める中学3年生の優奈も、あと1年で生まれ育った島を出なければならない。家族と離れ離れになることへの不安や、未知の世界への好奇心を抱きながら、優奈は最後に島唄を歌いきって旅立とうと前進していく。両親役で大竹しのぶ小林薫が共演。(旅立ちの島唄 十五の春 : 作品情報 - 映画.comより)


 ぱいながまホールにて鑑賞。とてもよかったです。

 正直に言えば、上映環境はかなり悪かったのだけれども、それが気にならなくなるくらい素晴らしかった。年末に発表する映画ランキングでもかなり上位に食い込むと思う。『ひまわり〜沖縄は忘れない、あの日の空を〜』もかなり評価していたけれど、あちらはまだ沖縄映画ということで下駄を履かせている部分はあった。でもこれは、日本映画としてもかなり出来がいい。

 笠智衆小津安二郎の映画『晩春』('49)のラストシーンにおいて監督より泣く演技を要求されたが、「明治の男はめったなことでは泣かない」という信条を持っていたため反対し、林檎を剥いてうなだれる有名なラストシーンが誕生した。
 この映画自体も『晩春』('49)に似た構造を持っている。父と二人で暮らす娘の自立を巡る物語だ。もちろん、キャラクターの置かれた境遇は異なるが。実際に主人公の父親を演じた小林薫の演技は笠智衆を模しているような気がするんだよな。おそらく、沖縄映画の傑作『ウンタマギルー』('89)を念頭に置いた配役だと思うのだけれど、素晴らしい演技を見せてくれました。

 沖縄を舞台にした映画ではあるが、沖縄を取り巻く社会問題であるとか、あるいは伝統とか、そういったものの重力からは自由になっている。確かにワンシーンだけ南大東島の現状について会合を持つ場面は出てくるし、そもそも主人公は三線を弾いているじゃないかというかもしれない。だが、ここで唄われる民謡は、あくまで現代を生きる女の子の普遍的な思いを表現する手段として用いられており、ここに作り手の矜持を感じた。

 要は、この物語は言葉が足りないとか、離れているがゆえに生まれてしまうコミュニケーションのすれ違いを描きつつ、その通過儀礼を経て大人になっていくさまを描いている。例えば、この映画においては携帯電話の存在も希薄だ。覚えている限りでは一回しか出てこない。かといって、登場人物が携帯電話を欲しがっている様子も見えない。ここで、携帯電話が手に入らない葛藤とかそういったドラマを作ることは可能だったかもしれないけど、あえてそれをやらないことで、結局どんな理不尽な運命でも受け入れるしかないのだという仕方なさが浮き彫りになる。また、それと同時にこの時代においては少しクラシカルな印象を持たせることで今の自分は果たしてコミュニケーションを本当に大事にしているのかと問いなおすことにもつながる。ぼくも彼女と、那覇と離島で遠距離恋愛をしているので、このあたりはいろいろ思うところあった。

 そして、主人公は様々な葛藤を経てクライマックスへ向かう。以下ネタバレなのでたたみます。


 遠距離恋愛の破綻や、両親の離婚等の試練を経て、主人公・優奈は島唄グループ「ボロジノ娘」の卒業コンサートの舞台を踏む。
 ここで唄うのは「アバヨーイ」。民謡教室の先生から「この歌は泣いて歌ったら意味ないからさ。堪えて唄うんだよ」と言われた曲*1
 これはすべての作品において当てはまる。堪えられないような感情があるときほど、人は泣いてはいけない。堪えている姿は美しい。泣かせたいのなら、自分は泣いてはいけない。昨今の「泣ける」映画に対するアンチテーゼともとれる言葉だ。
 ぼくはここに至るまで何度も泣いていた。優奈は劇中で後輩を「泣くな」と叱咤するがその言葉が胸に刺さった。
 
 そしてコンサートは盛況に終わり、主人公は思い残すことなく島を去る。
 冒頭では不安の象徴として扱われていたゴンドラが、今度は未来を祝福するように揺れる。去り行く舟はきっと父の視点から見たものだ。取り残されたのは観客であるわたしたちかもしれない。

 余談だけれども、この映画が沖縄県内では公開初日より行列が出来、3か月以上のロングランヒットになっているのに対し、『サンゴレンジャー』が短期で打ち切りになるあたり、観客はちゃんと見る目があるのだと思いました。

晩春 [DVD] COS-021

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*1:この映画の数少ない欠点として、中盤において三線があまり登場しないため、忘れられたような感じがするというのがある