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OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

ゼロ・ダーク・サーティ(★★★★★)


CIAで働いてるんだが、私はもう限界かもしれない

解説

2011年5月2日に実行された、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン捕縛・暗殺作戦の裏側を、「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督が映画化。テロリストの追跡を専門とするCIAの女性分析官マヤを中心に、作戦に携わった人々の苦悩や使命感、執念を描き出していく。9・11テロ後、CIAは巨額の予算をつぎ込みビンラディンを追うが、何の手がかりも得られずにいた。そんな中、CIAのパキスタン支局に若く優秀な女性分析官のマヤが派遣される。マヤはやがて、ビンラディンに繋がると思われるアブ・アフメドという男の存在をつかむが……。脚本は「ハート・ロッカー」のマーク・ボール。主人公マヤを演じるのは、「ヘルプ 心がつなぐストーリー」「ツリー・オブ・ライフ」のジェシカ・チャステイン。(ゼロ・ダーク・サーティ : 作品情報 - 映画.comより)

 とにかく『ゼロ・ダーク・サーティ』というタイトルが素晴らしい。チケット買う時にはかっこつけて言いたくなりますね。
 ところでこのタイトル、劇中に出てくるわけではない。
ゼロ・ダーク・サーティ」とは監督のキャスリン・ビグローによると軍事用語で午前0時30分を指すらしく*1ビンラディンを襲撃した時刻を意味する。
 ただ、ぼくはこのタイトルが、事実というよりもそのままこの映画から受けるイメージそのものであるように思う。
「ゼロ」は空虚。
「ダーク」は闇。
 そして「サーティ」。ぼくはこの単語、"thirsty"(渇く)に語感が近いと思った。



 つまりこの映画は、空虚で、暗くて、そして渇いている。



 とにかく全編にわたって緊張感が持続している。
 なんていったって、冒頭の911を再現した映像! まさかあんな手法で再現するとは。この映画は引き算の演出を行うぞという宣言にも近い。
 続いて描かれるのがCIAによる拷問。これが「公権力」によって行われる暴力であるというだけで緊張感が発生する。
 すなわち、この映画は「見えないもの」と「公的な暴力」がせめぎ合っており、それが緊張感を生み出している。
 グレイグ・フレイザー*2の撮影はすべての画面が決まっていて、それも作用している。
 確かにアレクサンドル・デスプラの音楽の仰々しさ、テロップのタイミング、ここ10年のことを描いているのにまるで歴史映画のような演出*3もそれに作用している。
 ただ、実はこの映画、決定的なことが起きる、まさにその前はいたって普通の場面が描かれる。けれども、確かにそこに至るまでの時間は逃げ出したくなるほどの緊張感に溢れていて、怖い。
 これはキャスリン・ビグローの前作『ハート・ロッカー』('09)で、全編を通して手持ちカメラのぐらぐらした映像で撮られているにも関わらず、戦争から離れたスーパーマーケットのシーンでカメラが固定された瞬間にとにかく不穏な空気が満ちるあの感覚が受け継がれている。
 キャスリン・ビグローはこの逆転現象を通して何を描こうとしたのか。



 ぼくはビンラディン暗殺についてよく知らないし、ビグローの監督作品もすべて見ているわけではない。
 ただ、ビンラディン暗殺はあくまで題材に過ぎず、実際には歴史をはじめとする大きなものとそれに巻き込まれた個人、そしてそれをつなぐ「仕事」あるいは「社会活動」について描きたかったのではないか。
 この映画の視点は2時間近いほとんどの間、主人公のマヤ(ジェシカ・チャスティン)から離れない。それは、普通の映画のランタイムとほぼ同じ時間である。
 マヤという女性は今まで見た中で一番凛々しい女性といっていいだろう。職務に忠実で、バイタリティに溢れている。だが、マヤのバックボーンは一切描かれない。だからこそ、彼女の人格がイコール彼女の仕事になってしまうような印象を受ける。
 そして、普通の映画のランタイムが過ぎ、ある目的のため視点がマヤから別の者たちに移った時、「公的な暴力」が行使される。
 それまでの普通の映画ではまったくなかったが、ここにきて完全に従来の映画では見たことのない局面に入る。
 この映画が「公的な暴力」の撮り方を見る限りアメリカを単純に賛美しているわけではないが、一方でマヤやダンといった人物の描かれ方を見ると、仕事をしている人間としてはどうしても肩入れせざるを得ないつくりになっている。上司が頼りにならないところなんてとくに。
 だからこそ、社会と個人をつなぐものが「仕事」である一方で、その個人の「仕事」がどのような結果を生むか。どうしても働いていると見えにくくなるし、それを考えると先に進めないので見ないふりをする。ここでまた「見えないもの」と「公的な暴力」のせめぎあいが発生する。
 そして、結果的には「公的な暴力」を眼前にし、かつ何もできないことをあらわにする。



 間違いなく、真実の一端を突いた素晴らしい映画だよ。

ゼロ・ダーク・サーティ コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]

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*1:http://en.wiktionary.org/wiki/oh_dark_thirty

*2:ぼくが知っている映画だと『モールス』(未見)くらいしかなかったが今後注目したい撮影監督だ

*3:全体的に『アラビアのロレンス』('62)を連想した