OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

シュガー・ラッシュ(★★★★★)


SR シュガー・ラッシュのラルフ

解説

ヒーローにあこがれる人気ゲームの悪役を主人公に描くディズニー・アニメーション。アメリカで長年親しまれているアーケードゲーム「Fix-It Felix」の悪役キャラ、ラルフは、嫌われ者の悪役を演じ続けることに嫌気がさして自分のゲームから飛び出し、お菓子の世界で繰り広げられるレースゲーム「シュガー・ラッシュ」に出ることに。そこでラルフは、仲間はずれにされているヴァネロベに出会い、孤独な2人は友情を深めていく。「スーパーマリオ」のクッパや「ストリートファイター」のベガ、ザンギエフ、「ソニック」シリーズのドクター・エッグマンら、日本の人気ゲームの悪役も多数登場。短編「紙ひこうき」が同時上映。(シュガー・ラッシュ : 作品情報 - 映画.comより)


 シュガー・ラッシュの作品的な出来の良さについて異論をはさむ人はいないだろう。
 数々のパロディ元、またそれをひとつにまとめかつ交通整理を行うことで想像力の爆発を見せる手法、脚本における伏線の張り方、砂煙(チョコレートパウダーでできているが)等明らかにフィクション的なものをCGで再現することでリアリズムを強調する演出、どこをとっても素晴らしい。
 ただ、この作品が賛否両論分かれているのって、ひとえにラルフの身勝手さが嫌われる原因になっていることだ。
 ので、ラルフを弁護することが今回の記事の目的にしようと思う。なぜなら、ラルフはおれだから。

 この映画がディズニー製作ではあるがピクサーらしいと言われるのが、子供向けアニメでありながら大人にも響くテーマがあるところだ。例えば『モンスターズ・インク』('02)には初めて子供を持った親の気持ちが反映されているし、『Mr.インクレディブル』('03)も社会人男性が出張で高揚する気持ちが反映されている、とは映画評論家の町山智浩さんの弁だ。おそらく、ピクサー作品におけるコンフリクトは実は個人的な経験に基づいていて、それがまたピクサー作品のリアリズムを補強しているのかも。
 さて、それを『シュガー・ラッシュ』にあてはめると、これはまさに「転職」についての話だ。
 

 要は、自分の能力を不当に評価された者の行き場について描いている。
 もちろんこれは自己評価に関する話だが、ラルフの仕事ははた目から見てもしっかりこなしてきたんだろうなという気がする。
 ただ、この『Fix-It Felix』というゲームの世界はラルフの存在なくしては成り立たないはずなのに、あのゲームの住人はラルフを中心から遠ざける。こういったこと、あなたにも身に覚えはないだろうか。
 ある集団において、面倒事は押しつけられるだけ押し付けられて、そのくせ押し付けた当人についてはアンタッチャブルに取り扱うというような空気が出来てしまうことはある。実写映画だとデヴィッド・O・ラッセル監督『ザ・ファイター』('10)の主人公家族がそれに近い。なんだろうなあ。手を貸すと面倒事を引き受けざるを得なくなるという感じがそうさせるのかな。



 でさ、被害妄想である可能性も留保しつつ、そういった環境については自分も思い当るところがないわけでもない。
 そういった様子、目に見えて叱責されるわけでもないけれど明らかに壁を作られているあの感じが再現されているからこそ、個人的にはラルフがパーティーをめちゃくちゃにするのも、むべなるかなと思った。
 あと、ラルフのなんでも壊してしまうという能力も、それを引き起こすコミュニケーションにあたっての性格の証左になっていて、それが個人的にも思い当るところ大だった。パーティーをめちゃくちゃにしてしまったのも、長年にわたって疎外されてきたことによるものが大きいと思うし。
 あと、ヴァネロペちゃんが『シュガー・ラッシュ』というゲームの世界で阻害される様子もかなりリアリティがあった。


 で、だ。
 結果的に自分の能力を不当に評価された者が、自分の力を活かせる場所に行きつくとき、そこがヴァネロペという同じく阻害された者だというのも象徴的だと感じた。
 ぼくのオールタイムベストの映画がイ・チャンドン監督の『オアシス』('02)で、これこそまさに社会から疎外された者同士が心を通わす様を描いていたので、これはもう大好きな展開と言わざるを得ない。
 結局、真に疎外されてしまった者は大きな集団に帰属することは出来ず、こういった関係性に収束していくのかもしれない。このあたり、ちょっとthe pillowsの歌詞に近いなと思った。
 それを肯定的に描くためには、ヴァネロペちゃんや『オアシス』のムン・ソリのようにキュートなパートナーとして描かざるを得ないけれど。


 そういったテーマ性から見ると、後半ラルフが『Fix-It Felix』というゲームに戻るところで着地するというのは確かに不満かもしれない。まあ、これはあくまでもディズニー映画で子供が見るものだと考えると、この着地はいたしかたないと思うが。
 おそらく、作品の完成度の点から批判している人は、前半のハードな阻害描写に対してその解決が甘いという点があるのかもしれないし、それは仕方ない。
 ただ、やっぱりラルフを悪く言う奴に対しては一言言ってやりたくなる。あなたはひょっとしてラルフみたいな人間を利用する側だったんじゃないかと。