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OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

『凶悪』(★★★★☆)


文字通り「凶悪」な映画

解説

死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。(凶悪 : 作品情報 - 映画.comより)

 正直に言えばぼくの手には余るのだが、ひとまずは感想を書いておきたい。


 まず、この映画は逃げ場を用意していない。
 キャスティングが発表された時にドキッとした。リリー・フランキーピエール瀧って。リリーさんは撮り方によっては怖くなるだろうけど、はたしてピエール瀧が本当に怖くなるのかなと思った。
 だが、そんな不安は杞憂だった。杞憂であればどれだけよかったか。


 まずこの二人の顔を知らない人は少ないと思う。この映画は主要キャスト以外は比較的無名な俳優を揃えているため、リアルだと感じられるような作りになっている。池脇千鶴も完全にオーラを消し去っている。
 ので、「異物」として置かれるのが、この二人と山田孝之だ。
 バラエティ番組でもよく観るような顔が嬉々として殺人を犯す。もし演出がまずければ完全にコントになってしまうところを、実在感のある犯罪として演出している。そのことによって、ここで起きる犯罪があなたの身近にも起こりうることを示唆している。


 そして、事件を追う記者(山田孝之)は、正義の名のもとに裁きを下すことに傾倒するあまり、家庭内におけるある出来事から結果的に目をそらすことになる。
 ぼくは、この記者の家族側の描写があったことで、ここに映っていることは他人事ではないという意識を強く持たざるを得なかった。


 これ、男には結構耳が痛い話だと思う。
 仕事に熱中するあまり、家庭のことをないがしろにする。ぼくはまだ結婚していないけれども、過去に思い当たる節がないではない。
 しかも、老いた親の介護は、誰の人生にもいずれ降りかかることが約束されている。これはもう「真面目に生きていれば大丈夫さ」というポーズを決め込むわけにはいかない。
 かつ、その出来ごとが描かれる前に、呼応するようにリリー・フランキー演じる先生たちが加えた「老人に対する暴力」が描かれるのだけれども、ここでキーとなるあるものの存在がどうしても自分のトラウマを呼び覚ましてならなかった。


 実際、この映画は相当批評するのが難しい。
 そんなエクスキューズを用意したくなるくらい、観客を逃がしてくれない、重い宿題を課すつくりになっている。


 須藤や先生が引き起こした犯罪は確かに私利私欲のためではあるけれども、そのうちひとつの犯罪は黒沢清監督の『CURE』('97)に描かれたものと近い、要はわたしたちの持つうしろ暗い欲望を代行しているものなのだ。だから、『ダークナイト』('08)に出てくるジョーカーにも通じるものがある。
 だから、この映画を見ているとき観客は倫理観を揺り動かされる。『冷たい熱帯魚』('11)でも殺人者は出てきて、その殺害方法をエンターテイメントとして見せることで倫理観を揺さぶるやり方をしていたけれども、こちらはそれに映画的なカタルシスを用意していないため(確かに殺人が進んでいく様は物語としてどうしようもなく面白かったが着地点を用意していない!)、どうしても観客が宿題を持ち帰らざるを得ないつくりになってしまう。


 ダメ押しとして一種のメタフィクション的に、それらの犯罪に自らの欲望を重ねてしまう自分の存在を否が応でも認識させる*1
 この映画は「快」をもたらさないし、かといって悲劇に振り切れることでカタルシスを生む作りにもなっていない。しかしながら、この映画を見た時点であなたは当事者になるため、無視することもできない。
 そのあたり、本当に恐ろしい映画だと思う。客観的に批評にしてしまった時点で他人事になってしまうため、批評することがとても難しい映画なのだ。

*1:ややネタバレ;リリー・フランキーがとるある動作が観客を指しているように見える