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OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

『そして父になる』(★★★★☆)

2013/10/4@シネマQ
2013/10/25@新宿ピカデリー


※内容に触れています


 はじめに、総評として。
 実は『凶悪』以上に痛いところを突かれた気がした作品であります。それと、『桐島、部活やめるってよ』と同様の問題を扱っているように思います。どちらも問題提起を行っている点が共通している。そのため、好きや嫌いのカテゴリーに入れてしまうのがどこか違和感がある。
 役者のキャスティングとか、細かい演出で心情を説明する方法等、良いところを挙げていくと切りがないので、完成度が高い前庭で今回のレビュウは進めます。
 なぜかというと、評論という行為は一種のメタ視点をとるものだけれども、この作品においてはそういったメタな語り口で他人事として語るのは違うと感じたから。


 自分の子供の取り違え(生まれてきた子供が誤って別の家族の子供と取り違えられていること)が発覚したことにより、改めて家族を見つめ直す視点、そして、立場の違う者との交流を描く作品。


 この作品において、「取り違え」はあくまで主人公が何かに「気付く」ためのきっかけである。
 この映画において福山雅治の演じる野々宮良多という男は、確かに冷淡なところはあるけれども、同時に男性社会人としてはある種の理想的ロールモデルである。その彼が「父親」という役割において挫折していく(そして立ち直る)ところが本作の面白さだ。


 だから、彼の姿を見て溜飲を下げる視点も存在する。



 家族間で取り違えがあったとして相手方の家族と交流が始まるのだが、相手方の父親・斎木雄大を演じるのはリリー・フランキー。福山が実生活でも慕っているのがキャスティングの妙を発揮している。
『凶悪』を先に見ていたからかもしれないけれども、このリリーさんに対して、確かに人懐っこいんだけど、同時にちょっとしたヤンキー気質を感じてしまったのも事実で、それはまあ、タトゥーの存在とか、敬語からタメ口に移る感覚とか、そういった端々の言動による。ただ、一か所叩くシーンがあるのだけれども、ここで力を入れないような叩き方をしていた。この叩き方がきっと公共の場で他人を叩くときの力加減を感じさせてよかった。ここのバランスから見るに、ヤンキー界隈で育ったのだろうけど本人はヤンキーではないだろうなと考える。


 それで、彼との交流と通して一種のアイデンティティ・クライシスに陥りつつも子供との関係を見直していく(=父になる)ことがこの物語の主として描くところだ。
 けれども、同時に彼の姿に限りなく哀愁を感じてしまったのも事実だ。
 確かに冷淡で鼻もちならない奴として描かれる野々宮だが、彼にだって封建的な父親のもとで育ったとか、競争社会で育ったとか、そういった背景がある。ひょっとすると、リリー・フランキー的な資質は自分には無いと見切りをつけた過去だってあるのかもしれない。ただ、そうやって彼は「がんばって」きたのに、それでも親になるという自然的な行為において挫折する。
 これは悲劇じゃないか?


 特に、一回目の鑑賞ではリリー・フランキーが演じているということに引っ張られて、そういった父親の資質というのが天性のものであるような気がしてしまった。ただし、二回目の鑑賞では、ひょっとすると彼は彼なりに悩んだこともあるんじゃないかと思った。斉木の妻(真木よう子)が琉晴(取り違えられた子供)が自分に似ていないと言われたことを告げる何気ないシークエンスの影響もあるのかもしれない。
 この映画は大部分が野々宮の視点に沿っている。リリー演じる斉木がいかにして父になったのかは記されない。だからこそ、ここは観客が野々宮と一緒に想像する部分となって残される(斉木の家族の描写も一面的に素晴らしいものとして描いてはいないし、時折斉木は「社会的地位ではわからんが子育てでは優越を感じているようなそぶりをみせる」ため素直にその価値観を受け入れられない人もいるかもしれない。でもこの描写はとてもリアルだ)。
 わたしたちは父になる方法がわからず一緒に茫然と立ちすくむのだけれども、救いはある。


 井浦新演じる環境調査員(なのかな?)が人口林について語るシークエンスがそれだ。
 なんだろうな。ここが泣けてたまらなかった。
 確かに、「自然」を作り出すことは難しい、15年はかかる。でも、不可能じゃない。


 実は一回見ただけじゃよさがわかりにくい映画ではあるし、感想も人によってばらばらになる。
 ただ、こういった映画が普段映画を見ない人にも届くという状況が素晴らしい。見ていて、この映画を見てほしい人が何人も思い浮かんだ。
 書きもらしたけれども、家族間において男性同士はぎこちないのに対し女性同士がすぐ(しかも悪口を通して)打ち解けるさまや、子供の演技の取り出し方、そして、その子供の演技によって、本来の演者さんの素が暴かれるようなドキュメンタリー性等、素晴らしいところはたくさんあった。というよりも、感想を書いていて改めて「好き」と言えるようになった。

そして父になる【映画ノベライズ】 (宝島社文庫)

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