OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

中年になって普通になった とたんに俺は鬱になった(韻踏み)~吉田豪『サブカル・スーパースター鬱伝』

 プロインタビュアーとして名高い吉田豪が、ジャンルは違えど各分野で名を馳せているサブカル有名人が40歳前後に経験した「うつ」についてインタビューをした『サブカル・スーパースター鬱伝』(徳間文庫カレッジ)を読んだ。

 大槻ケンヂリリー・フランキー等兼ねてからファンで著作にも触れてきた人や、枡野浩一唐沢俊一等少し前にお騒がせになった人など、境遇は違えど40歳前後にある種の人生のエアーポケットを迎えたことは共通している。基本的には頷きに徹しているにも関わらず、読んでいて「これはかなり深いところまで聞き出せているのではないか?」と思わせられる吉田豪のインタビュー力は素晴らしい。

 

 この本に出てきたインタビュイーの中で一番強さを感じたのは、20代後半にとある事情でパニック障害を発症していた大槻ケンヂだった。当時の様子は『オーケンののほほん日記』ほか、彼のエッセイにも詳しいのだけれど、やはりどん底を見て復活した人の言葉は違う。
 また、菊地成孔の話は他の語り手とはやや異色で、精神分析を受けたことについての言及が多く、これもまた非常に興味深かった。
 それと、ECDに関してはアルコール依存の治療の話も出てくるので、吾妻ひでおの『失踪日記』のような壮絶さを感じた。


 それで、この本を通して12人のインタビューを読んでいて、いくつかの話は似た結論に達することに気づく。

 ひとつは、サブカル者は基本日陰者であり体を動かさないため、そのツケが中年になって回ってくるということ。
 大槻ケンヂ菊地成孔の話にどこか強さを感じたのも、彼らがミュージシャンというアスリート性のある仕事をしているからなのかもしれない。


 もうひとつは、離婚や失恋も原因になるということ。
 もちろん、キャリアの限界が見えることなどを指摘している人もいるが、このインタビュー集の大きな特色として、一部の話し手は自身の中年以降の離婚経験だったり、あるいは恋愛経験の失敗について赤裸々に語っていること。
「サブカル」という分野が性格上、世間一般的な善とされていることに対し中指をつきたてる側面があり、その中で普通の結婚との折り合いが着けにくい側面があるのではないか、そう感じた。


 だからこそこの本に描かれていることは他人事じゃない。


 体を動かす習慣もなく、世間一般に迎合しきれないことに煩悶を感じてある種の文化に縋っていること、そのツケが自分にもいつ巡ってくるかわからない。
 この本を読んでも解決の糸口は見つからないかもしれない。
 けれども、いつか道に迷ったときに救いを与えてくれるものもやはりある種の文化かもしれない、と杉作J太郎へのインタビューを読んでいて思った。(敬称略)