OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

『硬式ペナス ラスト尿』(1989~90/監督:カンパニー松尾)

「厄介な女」がいた。反発だって覚えるし、一緒にいても幸せになれないことはわかっているのに、どうしようもなく惹かれる女が。

 今や『劇場版テレクラキャノンボール2013』('14)で世間の注目を集めることとなったAV監督・カンパニー松尾がキャリアの初期に撮った作品。それが『硬式ペナス ラスト尿』('89~90)だ。2005年に急逝した女優・林由美香も出演している。彼女を見て考えたのはそんなことだった。林のするどい目つきや男の自信をくじけさせるような態度は、画面越しに感じるのはいいけどきっと近くにいたらボロボロにされるだろうなと思わせるに十分だ。


林由美香「代表作ってないのよね」
平野勝之「『硬式ペナス』があるじゃん」

 平野勝之作品『監督失格』('11)の中で語られる一幕。ただ、林がこのような発言をした意図もわかる気がする。なぜなら、この作品は林由美香作品ではなく、まごうことなきカンパニー松尾作品なのだから。


 当時はやっていたMTV風のポップな文字やエフェクトのかけ方。岡村靖幸からの引用。カンパニー松尾のスタイルはあくまでもスタイリッシュ。本人は確かに様々な事象を受けて泣くこともあるけれど、それでも決して染まらない。いや、染まっても芯のところは変化しない。それはむしろ、ほとんど泣くことのない平野が対象に染まってしまうのとは対照的に。
 だから、この作品の主演女優がその15年後に死亡したと知っていても悲壮感はない。ただ、10代とは思えないくらい堂々としている、まるでハードボイルド映画に出てくるはねっかえり女そのもののような存在に圧倒されるだけ。
 特に『ラスト尿』に収録された二人だけのロンドン・パリ旅行とその道中でのインタビューやセックスの撮影はどうだ。どちらも、恋人同士が遭って何気ない会話をかわし(それでもここで林が松尾のことをすっかり見透かしているという事実には男として慄然とせざるをえないが)、そういうことをする。本来なら他者が介在してはいけない場、もちろん、二人ともセックス産業に従事している以上覚悟の上だろうが、それでもプライベートの感覚が覗くあの場所にカメラがあるというその居心地の悪いドキュメンタリー性に驚いた。
 惜しむらくは、このロンドン・パリ旅行の映像が凄過ぎてその後のおそらくはもっともアダルトビデオらしい絡みのインパクトが薄れていることだ。


 しかしながら、ラストカットで林の尿を浴びガッツポーズをする松尾。前衛!前衛!こうした前衛性を許す感覚もあの時代ならではなのだろうか。それとも、林由美香ファム・ファタールとしての魅力故だろうか。それは松尾にとっては禊なのかもしれず、こういった「厄介な女」に出くわした時には何かしらのけじめを自分の中でつけること(松尾にとってこのビデオがそうであるように)という教訓すら受け取った気がする。ありがとう!松尾さん!


 そういえば、このビデオには英語やフランス語の文字が多数出てくるが、「Famme Fatale」という言葉が出てこなかったのはなぜだろう。カンパニー松尾監督が知らなかったのだろうか。もし知っていたらもじってタイトルにしていたかもしれない。「ハメ・シタール」とか。