OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

『ベイビー・ドライバー』

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 イギリス出身のコメディを得意とする監督エドガー・ライトの長編としては4年ぶり5作目となるクライムアクション。
 
 サイモン・ペッグらとタッグを組んだスリー・フレイバー・コルネット三部作に『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!』('14)で決着をつけ、大手フランチャイズへの出店(『アントマン』)に頓挫した彼が『スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団』('11)以来の若手俳優(アントン・エルゴート)を主演に据えて作った映画は、音楽と映像のシンクロを行いつつもそれが間違いなく映画の構造に収まっているがゆえに、ミュージックビデオ的と呼ばれることを回避しているものだった。

 逃がし屋についての話であることからウォルター・ヒルの『ザ・ドライバー』('79)やニコラス・ウィンディング・レフンの『ドライヴ』('11)との相似性も語られる今作、個人的には、男女関係の描き方などにジャン=ピエール・リモザンの『NOVO』('02)を連想。記憶喪失の男が新たな世界を知る物語を、視覚からではなく聴覚から語りなおしているような印象。

 一方で、音楽センスの披露においても、タランティーノのようにレア・グルーヴを持ってくるというよりも、よく知られたネタを別の角度から語りなおすような印象を受けた。The Jon Spencer Blues ExplosionQueenなどいわゆる「大ネタ」として文脈に取り込みにくいものを取り込めている感じ。その意味で言えば、事前に使用楽曲について情報交換を行ったとされるジェームズ・ガンと近いのかもしれない。

 内容としては、いきなり派手なーカーチェイスでみんなの視線をいただきまゆゆするものの、徐々にこの音楽とのシンクロをずれさせ、主人公を街に縛り付ける悪縁を描くあたり、イギリス映画だなと思った次第。この映画が『T2 トレインスポッティング』('16)と(日本では)同年に公開された偶然に思いをはせる。

 正直な感想を述べると、街や過去が未来を縛り付ける苦さをポップミュージックに乗せて送る構成で苦さを味わう経験ははもっと若い時にやっておくべきだったな、と。あと、劇中で主人公が常に音楽を聴いている理由が語られるけれど、これは先ほど比較に出したジェームズ・ガンもそうだったが、なんとなくここで音楽を始めとするポップカルチャーに触れることに対する言い訳をしているようで、あまりノレなかった。多分私はタランティーノジャームッシュあたりの「かっこいいから音楽を聴く」の方にシンパシーを感じる世代なのだ。といっても、私はエドガー・ライトより10歳くらい下なのだが。