OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

『三度目の殺人』

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 是枝裕和監督の1年ぶりの13本目となる長編映画。主演は『そして父になる』('13)以来となるタッグの福山雅治に、意外にも初出演となる役所広司

 黒い黒い黒い。そもそも最近の是枝監督の映画は、ポスターが白を基調とした淡いイメージにも関わらず、いざ本編を見てみるとむしろ陰影が濃い場面が印象的で、特に『海街diary』('15)以降は室内の撮影がまるでアキ・カウリスマキの映画のように独特の色合いを増している。
 しかし、ここまで画面が黒い是枝作品は初めてじゃないか。俳優の顔には80パーセント近いんじゃないかというくらいに影がかかっていて、僕ら日本人にとっては有名な俳優が出演しているというアドバンテージによって話が理解できているんじゃないかと思うくらいに。
 あと、是枝作品では『空気人形』('09)以来ではないかというイメージショットが出現している(『奇跡』('11)にも出てたかな)。しかし、『空気人形』のラストがああなったように、是枝作品においてイメージショットというのは、あまり良い結果を招かない。だとすると、全編がイメージショットをめぐる話である『ワンダフルライフ』('99)はどうなるのか。

 基本的に是枝作品は心情に沿った丁寧な演出が特徴的で、本作には顔にかかる影の頻出などが暴力的に登場するのが面白いところだと思う(ただし、ラストの顔の重ね合わせはベタすぎてあまり評価したくない)。真面目すぎるきらいはあるが、個人的には真面目な演出は好きだし、この真面目さを否定したら後が続かないと思う。

 さて、映画はテーマがすべてではないとは言え、テーマにも言及しないことにはこの作品を語り終えられない気がする。それがこの作品のずるいところではあるが・・・。

 法廷劇という舞台装置と、役所演じるトリックスターの存在によってつまびらかにされるのが、この「社会」というのが安易なストーリーに流れゆくものだという構造。暗黙で作られた、誰かにとって都合のいいストーリーに合わせる過程で抜け落ちてしまうもの。それがこの映画の中でつまびらかにされるのだから、真相は曖昧なままになる。それは、映画の中で下される判決というかたちで作られたストーリーも、福山が役所に投影していたストーリーも、すべて等価であるということを示して、終わる。
 つまるところ、面倒を避ける姿勢や保身のために都合のよいストーリーにすがりつく部分は僕にもあるので、この「ストーリー」をめぐる対話がどこにいくのかはほぼ飽きることはなかった。ある種、誰もが触れられたくないところに触れる作品だと思うので、ヒットはしないだろうが、これを「観るべきではない人」が観て、怒る姿を見たい、と思うのもまた自分にとって都合のいいストーリーの書き換えだろうか。