OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

『ローサは密告された』

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 フィリピンの監督、ブリランテ・メンドーサの2016年作品。マニラのスラム街を舞台に、麻薬売買で逮捕された夫婦を描く社会派作品。ブリランテ・メンドーサ作品は初めて観ました。

 社会派作品を語る手法を僕は持っていないのかもしれない。フィリピンの貧困についてあまりにも知らなさすぎるし、それを後ろめたく思う程度の良心はあるし、メッセージを完全に映画的手法から切り離して語る手法も確立できていない。
 そんな言い訳を並べつつも書くと、マニラのスラム街という街を手持ちカメラによりぶつ切りで切り取った点が特筆すべきところになるのかもしれない。最初観ていてこれはドキュメンタリーなのかと見まがうくらいだった。それくらい、マニラという街は「リアル」だし、演出が介在していると思えないくらい各役者陣の演技も「リアル」。

 一方で、タレこみにより芋づる式に関係者が出てくるところ、警察の腐敗がわかりやすいほどの腐り具合で、今年観た映画の中でもベスト級の悪役具合であること、後半の保釈金をめぐる子供たちのやりとりなど、娯楽的要素も含まれている。

 そして、実は意外とわかりやすいストーリーラインを踏んでいくうちに、次第に街の「顔」が浮かび上がるんですね。この街がなぜここまですさんだかはわからない。それでも、間違いなく人々の性格をゆがませる因子がこの街にはあり、子供たちもそこへ飲み込まれていくという暗示。この映画の主役は間違いなくこの街だった。
 そしてラストに映されるローサの顔は、この街の表情を具象化したものであり、間違いなく映画を終わらせるに足る顔だと感じた。

 と言いつつも、疲れた体には堪える作品だったのも事実。個人的にはこの手の荒廃したリアルを描いた作品は『そして、ひと粒のひかり』('05)のエンドロールがアラニス・モリセット風のポップソングで終わるように、物語的なものでなくても多少の救いがあった方が好み。生活感あふれる映像は情報量も多く、疲れるのも事実なので、体力のある時に観ましょう。