OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

矢野絢子「ナイルの一滴」

 俺がこのアルバムを聴くきっかけは、去年の11月ごろにたまたま有線で聴いた「ゼンマイ仕掛け」。バイオリンの音と、アップテンポなピアノ、比較的高めのキーのボーカルからなるこの歌は、なんだかとても切迫した感じで、個人的なイメージだが、中国の田舎の地方の雰囲気がした。    
矢野絢子の歌だと知って早速レンタルして聞いたこのアルバムには、一曲目「てろてろ」からやられてしまった。「本当はいつもいつまでも 君のことを思っているんだ」と歌われるこの歌は、まっすぐなボーカルと叙情的なピアノ、そしてゆったりとしたバイオリンで、どこかなつかしくてやさしい風景を見せてくれた。曲間があいまいなまま、次の「夕闇」に入る。この歌も最高だった。さびでは「抱きしめても 抱きしめても きっと足りない」とコミュニケーションの難しさを言い表した言葉を刻みながら、二番では「離れても 離れても きっと消えない」と希望を示している構成にやられてしまった。この2曲は僕がバイトに疲れての帰り道でよく聴いていたので、そのころに見た少し田舎の町での冬の夕暮れとともに思い出される。そのほかにも、感情こもった歌い方が特徴の「わかれ」、12分にも及ぶ大曲「ニーナ」、アルバム後半の、ロックンロールっぽい流れを象徴する「レモンスライスほおばって」など、名曲は多い。おそらくこの人はクラッシックの素養があるのだろう。そのせいか、全体的にロックのそれとは異なる緊張感が流れていて、それが非常に心地よかった。ただ、アルバム構成としては中心に「ニーナ」という大曲が位置しているせいで、すこし長いかなという気がするのも事実。「てろてろ」〜「ニーナ」、「ひとさじ」〜「ナイルの一滴」という風に、ミニアルバムにすればよかったのかな?それでも、このアルバムで感じる矢野絢子という人のパワーは、荒削りながらもこれからすばらしい作品を作り出してくれそうな気がする。今年第一弾シングルは「氷の世界」で、タイトルからも想像がつくとおり井上陽水のカバーで、それなりに良い出来だったんだけど、レコード会社が戦略的に売れを狙っているみたいで少し複雑だった。矢野絢子にはこれからもマイペースに活動していってほしい。

ナイルの一滴

ナイルの一滴