OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

NANA

監督 大谷健太郎  脚本:浅野妙子大谷健太郎 
ナナ:中島美嘉 奈々:宮崎あおい レン:松田龍平 ノブ :成宮寛貴 
シン:松山ケンイチ ヤス: 丸山智己 タクミ: 玉山鉄二 レイラ:伊藤由奈
ナオキ :水谷百輔 遠藤章司:平岡祐太 川村幸子:サエコ  
同じ時刻に同じ列車で上京したナナと奈々が同じ部屋に暮らし始める。奈々は彼氏を追っかけて、ナナはロックで夢をかなえるために。
 というのが、この映画の粗筋。本当に、粗筋ってくらいの粗筋。なんでこんなに簡略化して書いたかっていうと、この作品は、確かに漫画も何も見ないで見た僕としてはストーリーの流れで楽しめた部分もあったけど、個人的にはこの作品を彩るアイテムのひとつひとつがすごく魅力的だったから。
 正直に言えば中島美嘉の演技は役者を本職としていないこともあってか、少し苦しいところもあった。ナナって役柄的には一見正反対だけど「電車男」のエルメスに通じるのかもしれない。演出によって完璧なまでにその役割をビジュアル的に再現しているという意味で。しゃべっていないシーンが最も魅力的であるなんていう共通点もできてしまったけど。対照的にハチ(奈々)のファッションはいかにも女の子という感じで、その二人が一緒にいる姿は、アンバランスなようであらかじめ決められた二人のような気もする。
 そして、この映画は全体を通してロックというものを雰囲気で描いている印象がある。
 たとえば、ハチの自宅にいるナナは、そのパンクファッションから浮いて見える。そのアンバランスさがなぜだか心に残ってしまう。たとえば、北海道(?)にいたころナナとレンの暮らしていた部屋のなんともいえない退廃的なムード。僕は、あの空気は間違いなくロックだと思う。
 ここ数年、ロック映画というジャンルが完全に確立されそうなほど、ロックを扱った映画は多い。日本でいえば、「アイデン&ティティ」なんかはロックを再定義しようとするという意味で間違いなくロック映画だと思うし、「69-sixty-nine-」も演奏シーンもあるしそういっていいんじゃないかと。洋画だって「24 HOUR PARTY PEOPLE」「スクール・オブ・ロック」とか。けど、NANAはそれらの映画とは大きく異なる部分がある。上記の映画の多くは「ロックとは何か?」という命題に向かって煩悶している姿が描かれている。ロックってのは哲学に近い物だってことは、ロッカー自身も多く語るし、評論家はそれ以上に語るだろう。けど、「NANA」はつまり「ロックとは何だ?」ということをテーマにしているのではない。ナナというキャラクターは「ロックとはこれさ」という役割があるのだ。ナナのやっている音楽がロックかどうかは異論がある人もいるだろう。中島美嘉はロックボーカリストではないし、僕は結構好きな歌声だったりするんだけど、残念ながら劇中歌もJ-POPのようにしか思えなかったのも事実(いい歌だけどね)。けど、ナナのファッションはロックのにおいが確かにする。普段だってあの格好をするのは相当な覚悟が必要だ。故郷にいたころからの、まるでまっとうさに背を向けたようなナナ(とレン)の生活にも確かにロックのにおいがする。退廃的なムードの部屋や、そこに置かれたベッドやバスタブからも。
 ロックとは何かなんて答えられないけど、この映画を見て思ったのは、とどのつまりロックってのは雰囲気重視でもいいんじゃないか?
 全体を通して80年代の感じがしたのも事実。まるでチェッカーズでも流れてきそうな。そういえばチェッカーズにも「NANA」って曲あったな。チェッカーズがロックなのかは置いといて、また、作者が果たしてロックを評論家並みに詳しく知っているかと言うことも問わない。ジミヘンだって本当は「アイデン&ティティ」の中島なみに人間くさいやつだったのかもしれない。ただ、ロッカーってのはひとつの側面としてステージの上から届かないような、そんなオーラ(僕の嫌いな言葉で言うとカリスマ性だ)を出す面もあると思うんだ。
 ナナ?彼女はロッカーだと思う。僕がこのまま普通に生きていったら、一生交わることのない線なのかもしれない。それを普通の人という視点で描くために必要なキャラがハチ(奈々)。個人的に、ハチはあまり好きになれない。サチコのほうが嫌いなキャラではあるけど、ハチも常識がなくて、恋愛を中心に動くって言うのがあまり好きになれない気はした。だけど、ハチみたいな人は「こんな奴いねーよ」なんて映画観て思っても実際にいる。ってかあなたの中にもハチの要素は確かにある。そしてそのハチの要素は必ずナナにあこがれている。ハチ側の世界観はロックではないのかもしれないけれど、挫折を通して成長すること、これはロックの要素のひとつでもあったりする。
 ロックの世界観と非ロック的なラブストーリーの世界観が混ざり合う場所。それが707号室なのである。(80/100)

NANA (1)

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