OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

めし

 1951年公開。監督: 成瀬巳喜男 原作:林芙美子 出演: 上原謙, 原節子, その他。
 えっと、今僕は帰省中なんですが、この映画は、地元にある名画座的なところでやっていたので観ました。僕が高校生で実家にいたころはその名画座はなくて、もし高校生のころからあったら、もっといい映画に出会えていたのかなと思います。ちなみにお客さんはおじいさんおばあさんばかりで、若い人は僕一人でした。
 それで、この映画は、大阪で暮らす倦怠期の夫婦、岡本初之輔(上原謙)と三千代(原節子)のもとに、東京から姪の里子が転がり込んできて、というもので、原節子さんに僕の3つ上の先輩に似ていることが気になってました。どーでもいいですね、はい。
 これを見る直前に藤子・F・不二夫さんの短編を読んでいて、それの中には「オヤジ・ロック」とか「コロリ転げた木の根っこ」みたいに、わりと封建主義というか、女房を怒鳴りつけるような昭和の男然とした男が出てきたんです。おそらく、僕らの世代の大半が、昭和初期頃の夫婦といえばそんなのを思い浮かべると思います。けど、この作品にはそういった人はまったく出てきませんでした。基本的に悪人が出てこないドラマですね。淡々と市井の人の日常を映しただけですけど、その分言葉の一つ一つが光っていたように思います。それと、音楽のかけ方はいかにも雲行きが怪しくなりそうなときにそのような音楽かけたりと、まったく捻りはないんですけど、それがまたよかったと思います。
 それと、やはり目に付いたのは原節子さんの演技ですね。すごく自然なんですよ。なんだか、嫉妬やそれを取り繕っているときの表情とか、そういったのを出すのがすごくうまかったと思います。この原節子さんって1962年を最後に隠遁しているんですよね。きっと本当の女優なんだと思います。
 あと、この映画はどこか女性の自立をテーマにしているようで、最後には家庭に、夫のところに戻るといったラストをとっています。この辺、いかにも田島陽子が怒りだしそうなところです。僕自身はあまり「女性とは、男性とは」とかいったものを前面に出した作品は好きじゃなかったりします。けど、この作品を見る限り、男ってどうしようもないですね。三千代がいないと初之輔は衣服は脱ぎっぱなしだはお客さんには応対できないはで、ってそれは僕も一緒だが。大島弓子の「乱切りにんじん」を見ているようだ。全体的に単調でユーモア少ない作風なんですけど、これらの描写のところでは客席も沸いていました。日本の親父って、頑固で、確かに家庭の収入源を担っているのかもしれないですけど、炊事洗濯掃除とかやらせたらお粗末なもので、そのくせ威張り腐って小さな権力者になってしまうんだから、困ったものです。
 それでですね、基本的に日本においては芸術は女性のするものだという考えがあると思います。これは、戦争や高度経済成長を通して前述のような頑固親父を生み出した日本の背景の産物です。でも日本には男性の芸術家も数多いじゃないか、って?それはつまり彼らがどこか女性的だからだと思います。それだけに、あのラストに不服を覚える人もいるかもしれないですが、個人的には少し折れた感じの上原謙の演技がいい味出していたと思います。
78/100

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