OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

大島弓子「いちご物語」

 少女漫画です。それも1970年代の少女漫画隆盛期に出版されたので、それはもう筋金入りの。ですので、少女漫画になれていない方にはきついかもしれません。実際僕も、花がたくさん出てくるこの時期の絵は少し読みづらいものがあると思います。
 これは去年の大晦日に1時間半くらいかけて読んだんです。ストーリーは簡単に言えばラップランドから来た押しかけ女房!?旅行中に会った日本人、林太郎を慕ってラップランドから突然日本にやってきたいちごだが、林太郎にとっては旅行中に会った親切な日本人夫婦というだけ…。というもの。いちごの親子は日本人ですがラップ人の中で生活しています。
 まず、ちょっとだけ余談を。この中に良く出てくる「タック(ありがとう)」って言葉はシガー・ロスのアルバムタイトルにも使われていたのでお気付きの方もいるかもしれませんが、アイスランド語です。それで、実はラップランドではアイスランド語は使われてなくて、これはもしかすると考証ミスかなと思いました。ただ、この「タック」だったり「フェロート(ごめんね)」だったりはよく物語中で連呼されるのですが、その暖かな響きがこの物語にはよく合っていたような気がします
 気づいたのは、大島弓子作品の登場人物はよく考え事に夢中になって、先生に怒られたりするということです。僕も身に覚えがあるのですが、こういった場合、考えている内容ってその人にとっては授業より大切なことなんだということを認識させる作用があるということです。林太郎は実際その後授業を抜け出してますからね。
 あと、僕は今喉風邪をひいていて、咳が止まらないのですが、いちごも日本の空気が合わなくて咳が止まらなくなる場面があります。その咳の音は「コンコン」です。「コンコン」より「ゴホゴホ」や「ゴホンゴホン」のほうが切迫感がありますよね。けど、なぜ「コンコン」なのかっていうと、まず、単純にかわいらしいからだと思います。別に「ゴホゴホ」でも世界観が崩れるとは思わないけど、なんだかね。それと、確かにこのシーンは死と隣接した場面なんだけれど、そんなに切迫感を必要としていないのかなという気がします。この物語って文庫版にしてP.412-413あたり、またそれに至る過程がクライマックスで、そのあとはエピローグという感がある。で、ここから先はネタバレになるが、(反転して読んでね→)いちごと林太郎がラップランドへ行くシーンはすごく現実感が無くて、いちごが死ぬシーンをあえて直接的にまた御涙頂戴的に描いてないのもそんなところかなって気がします。きっと多くの日本人にとって北欧は冷たくて澄んだイメージがあります。だから、こういう展開にしたのはどういう意図があったのかなって気もしますが。
 ラストを観れば解ります。やはり大島弓子は「ハッピーエンドの女王」です。
70/100

いちご物語 (白泉社文庫)

いちご物語 (白泉社文庫)