OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

新井素子「グリーン・レクイエム」

 SF作家・新井素子さんの3作目となる短編集。確か出版が1980年で、当時20歳、本作収録の「宇宙魚顛末記」にいたっては1978年の発表なので、書いた当時18歳でした。今の僕はその年齢すら超えてしまったわけで、そう思うとため息が出ます。ちなみにこの方はデビューは17歳のときです。もし2006年現在にデビューしていたなら綿矢りさなんて比較にならないくらいの衝撃のデビューだったと思います。
 初めて読んだのは15才のときで、当時中学生。背表紙にあった「えっと、」で始まり「あたし」という一人称で語られるストーリー紹介に魅かれて読みました。ドラマのような語り口に初めての衝撃を受けました。それから約2ヶ月間で著作を大体読破してしまうくらいの。当時自分の中で昭和軽薄体がブームだったのかも。椎名誠も好きだったし。
 この方は少女漫画のような語り口を特徴としていて、確かに若干の文章力の不足(本人もあとがきで述べている)は感じるのですが、少なくとも新井素子以前にはなかった形態なのだと思います。後々のライトノベルに与えた影響も大きいでしょう(事実、新井素子自身も集英社コバルト文庫から作品を出している)。あまりこの言葉を使うのは好きではないけれど、天才だと思います。
 この作品集には3本収録されています。1本目の「グリーン・レクイエム」は正統派の少女漫画風SF。ただ、この作品の主人公、というかヒロインの三沢明日香は後々の新井素子作品から見ても異質なキャラクターだと思います。どっか無自覚的にかわいさを振りまいている印象が強くて、いかにも少女漫画の病弱な少女というステロタイプに沿った印象があります。SFより、泣かせるお話が好きな方にお勧めです。
 2本目の「週に一度のお食事を」は、新井素子の悪趣味な面、いわゆる、ホラーの畑にフリルで入っていっても大丈夫だったみたいな、そんな印象を受けるショートショートです。ただ、オチには絶句するでしょう。
 3本目の「宇宙魚顛末記」は、個人的に一番新井さんらしい作品だと思います。主人公もどんなピンチに取り込まれてもどっかシリアス味がかけている割に、しっかりした一面も持つ、みたいな感じがして、典型的な新井素子作品の主人公という気がします。この作品のどこがよかったって、大学の仲間が土曜日の夜に誰かの家に集まって、とりあえず話し合うみたいな、そんな感じがよかったんです。「このままじゃ地球がなくなっちゃうの!?」「えーっ!?」みたいな。
 それと、特筆すべきはあとがきですね。あとがきはほとんどもう、エッセイです。誰かが言っていた気がしますが、この人は存在自体がSFなんだと思います。言動もかなり奇抜、というか不思議チャン系らしいですし。当時そんな言葉はなかったんですけどね。
 ただ、もし高校や大学の友達に新井素子、あるいは新井素子作品の登場人物がいたら、きっと仲良くなってたと思うんですよね。ひょっとしてたら惚れてたかも。そういうこと。
80/100

グリーン・レクイエム (講談社文庫)

グリーン・レクイエム (講談社文庫)