OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」

 田辺聖子の短編集。1987年発表。仕事をもった大人な女性たちの恋の話。
 まず、最初に感じたのは、どの作品にもそこはかとなく漂う和の要素、それも、茶道確立以降のわびさびの要素だ。畳と番茶のある恋の話だ。この和の要素は少し群ようこさんとの共通項を感じさせる。
 物語の骨格としては、落ちというものは特に存在せず、徒に盛り上げることもなく終わる。女性も、ああ、きっと作者がこの女性のしっかりしたところに惚れ込んでるんだな,と思えるくらい魅力的だ。恋愛やセックスに対する距離感が絶妙な気がする。この辺の構成は、解説を書いている山田詠美に受け継がれているのだろうか。向こうは黒人文化の影響が強いという違いはあるが。
 群ようこにせよ、山田詠美にせよ田辺聖子からの影響は大きいと思われる。
 表題作のジョゼを除くすべての女性が仕事を持ってその上できちんと恋愛をしている。特に感心させられるのが、46歳にもなって身を焦がすような、それでいて割り切った恋愛をしつつきちんと貯蓄をする(しかし不思議と計算高いという気はしない)「雪の降るまで」の主人公だろう。
 映画化もされた表題作は、ジョゼという女性のわがままななかに透ける優しさが印象的。この本に収録されている短編のなかで最もドラマチックな盛り上がりを見せている。
 個人的に一番好きなのは「男たちはマフィンが嫌い」。これは、完全に仕事人間の恋人と会う約束をして別荘で待つ女が、待つ事をやめてその恋人の甥と一緒に別荘を飛び出す話。「マフィン」というアイテムの持つ意味を考え、そしてほくそえむ。
 基本的に作品ごとにでき不出来の差が大きいわけではなく、おしなべて高水準であるので、読んだ人がそれぞれ好きな短編を見つけ出すような、そんな作品集なのだろう。
 書き忘れていた。すべての話は大体が大阪で進行し、大阪弁でせりふは話される。大阪弁は不思議な言葉だ。喋る人によって怖くもなるし優しくもなる。普段着にもよそ行きにもなる。ここで話される大阪弁は普段着でやさしい言葉だ。
84/100

ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)

ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)