OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

aiko「桜の木の下」

 aikoの2枚目のアルバム。2000年リリース。
 これから入る人も多いですね。確かに、初心者向けともいえるかも。
 アイコっていえば、ポップなのによく聴けば複雑なメロディやコード進行が特徴。その辺のミクスチャーロックなんかよりよほど聴きごたえある。
 それと、アイコっていうのは春のイメージが強い。このアルバム以降、アイコは1年3ヶ月のスパンを必ず空けてアルバムをリリースしており、季節ごとに出しているのだけれど、現時点では春に出したアルバムが3枚で一番多いというのもあるのかなと思った。
 アイコのキャリアの中では比較的ロック色の強いこのアルバム。全曲レビュー。
M1 愛の病:一曲目は明るい甘いギターの音で幕を開ける。内容は幸せ系、ノロケ系。実生活でこんなこと言われたらうざいんだろうなと思いつつ、けど耳が離せない。
M2 花火:アイコの名を世に知らしめた一曲。好きな人に思いが届かない苦さを夏の星座(さそり座)や一瞬で消える花火に重ねて語っている。間奏明けのメロディラインがクルクル変わるところは絶品。聴く麻薬。
M3 桜の時:先行シングルとしてリリース。オープニングの明るいコードのピアノが「春!」ってな感じで最高。「桜」をキーワードにハッピーな恋愛を描いている。「右手をつないで」あたりが松田聖子の「赤いスイートピー」の「なぜ知り合った日から半年過ぎてもあなたなぜ手も握らない」(松本隆作詞)の続きのような気がした。
M4 お薬:歌詞は切ないんだけどアレンジは楽しそうで、それが歌詞の内容の切なさを倍増させているような一曲。電車に乗って別れた彼に再び会いに行くっていう、わりとドロドロしたシチュエーション。状況は真逆だが、荒井由実の「ルージュの伝言」を少し感じさせる。電車から見える風景の描写とかね。間奏のピアノは秀逸。
M5 二人の形:季節は6月くらい。ミディアムテンポのバラード。アイコの熱のこもった歌唱も冴えている。終盤の「あったかい夏の始まりそうなこの木の下で結ぼう 手を引くあたしに笑ってついてきてくれる それが二人の形」というサビの歌詞をフリーキーなメロディで歌うところが最高。
M6 桃色:ピンクではなく桃色。桃色ってことば今日日使わないよなあなんて思いつつ、桃色って言葉のもつ、ピンクよりも和製の「性」をかんじさせるけれど、アイコが歌うとなんかそれが前面に出ない(悪く言えば色気が無い)感じの「桃色」になる、そんな微妙な感じ。アイコのトークを一度でも聴いたことがあって、そしてそれに心地よい感じがしたならばこの曲の「ヌルさ」にはまれると思うんだ。
M7 悪口:アイコの「毒」。初期RCサクセションのようなフォークサウンド。歌詞の内容はこのアルバムの中で唯一ラブソングではない。友達に関して、どうしても思ってしまうコミュニケーションの煩わしさ、そんなのを夕暮れを感じさせる優しいアレンジに乗せて表現したところにアイコの一筋縄ではいかなさが現れていると思う。
M8 傷跡:イントロの3拍子のピアノから持ってかれるでしょう。「街灯」っていう、不思議な明るさをもったアイテムに恋人(あるいはそれに次ぐ関係の友達)と一緒にいれて幸せな情景を重ね合わせています。サビの一種のビート感を感じさせる言葉の乗せ方はもはや変態の粋だろう。
M9 Power Of Love:これぞガールズポップ!って感じの一曲。歌詞は・・・、っていうよりバカップルだよねこれ。身近にいるとこれほどうざいものはないのに、aikoの歌詞になると許せるのはなぜだろう。
M10 カブトムシ:アイコと桑田圭祐は似ている。バラエティ番組などでのサービス精神の豊富さという点では確かに桑田に劣るかもしれないが(それでもアイコのトーク力はあるほうだ。桑田が高すぎる)、アイコもサザンも、ロックからバラードまで幅広いソングライティングが可能なのだ。「花火」で弾けたポップスとしての力を見せつけ、次のシングル「カブトムシ」で日本人の琴線を刺激するバラードを出してきたアイコ。この手法は「いとしのエリー」を出したときのサザンを思い出させる。
 秋を感じさせる曲調と反して歌詞は幸せな情景を描いたもの。聴くたびに切なくなる。
M11 恋愛ジャンキー:同名のエロ漫画がありますが無関係でしょう。アイコ流ハードコアっていう、珍曲。電波ソングに分類されても文句は言えんぞ、ってなくらい。けど、ノイズギターさえも甘ったるく聞こえてくるのはなぜ。同系統の曲はしばらく無いです。

(総評)アイコで最大のセールスを記録した作品でもあり、また、アイコの情景描写能力には舌を巻かざるを得ませんし、ロックの香りのするサウンドもよいです。J-POPというくくりを最大限に利用して作り上げた、00年代を代表する傑作だと思っています。
83/100

桜の木の下

桜の木の下