OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

嫌われ松子の一生

配給・東宝 脚本・監督 中島哲也 原作:山田宗樹嫌われ松子の一生』(幻冬舎
出演 中谷美紀 瑛太 伊勢谷友介 香川照之 市川実日子 黒沢あすか 柄本明 木村カエラ 柴咲コウ 片平なぎさ 本田博太郎 奥ノ矢佳奈(子役) ゴリ(ガレッジセール) 榊英雄 マギー 竹山隆範カンニング) 谷原章介 甲本雅裕 キムラ緑子 角野卓造 阿井莉沙 宮藤官九郎 谷中敦東京スカパラダイスオーケストラ) 劇団ひとり 大久保佳代子オアシズ) BONNIE PINK 濱田マリ 武田真治 木野花 荒川良々 渡辺哲 山本浩司 土屋アンナ AI 山田花子 あき竹城 嶋田久作 木下ほうか

 期待が大きすぎた分観るのが怖かった。これだけ発表を心待ちにした「作品」っておそらく銀杏BOYZの『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』および『DOOR』以来だったし。それに、すこし不安にもなっていた。ぼくは以前の日記にも書いたとおり『下妻物語』が大好きなんだけれども、『下妻物語』のほうは土屋アンナ深田恭子のダブルボケで進む、まるで笑い飯みたいな笑いであるのに対し、この作品はいってみれば中谷美紀のピン芸、観客自身のツッコミを要する作品だと思ったから、失敗する可能性も高いと思ったから、それと、公式HPのキャスト紹介を見て本編をフライングして観てしまった気がしたから。原作のある作品を観る場合は原作を読んでから見たほうが良いといわれるけど、中島哲也作品の場合はあえて原作を読まずに観たほうが楽しめる気もした分、少々楽しみが削がれてしまった気がした。
 けど、そんな不安も吹き飛ばすくらい素晴らしかった。ジェットコースターのような展開に行き着く暇も無かった。「どうしてここでそんな選択肢選ぶのさ」ってくらいやきもきした。ギャグも面白かったし、ラストシーンは泣けた。素晴らしかったところを挙げていったらこの日記を書くのに夜明けまでかかってしまう。ほめすぎって言われるかもしれないけれども、それくらい大きい衝撃を受けて、まだ立ち直れていない。多少うつが入っているときに観たってのもあるかもしれないけど、明日からがんばれる気もしたし、どんな人生だっていいんだって気分にもなった。
 観ているときは正直40〜53歳の時期がタルく感じた。従来の映画的手法だったら、この時期はきっとカットすると思う。伝記映画なんかにはよく見られる手法だしね。ただ、このシーンをカットしなかったからこそ、ラストシーンの感動はあるのだと思う。
 途中で松子は神様だって言うシーンがあるけれども、ぼくはやはり松子は神様では無いと思うんだよ。ただ、松子の本来なら憎むべき人にも愛を捧げて、自身も愛されることを強く求める姿は、誰からも好かれたいと思ってもうまくいかない自分にだぶったりした。
 全体的な思想というのかな、それに業田良家の『自虐の詩』に近いものを感じた。『自虐の詩』では「ものごとを幸せ不幸せの尺度ではからないこと」を述べているけれども、『松子』では「幸せ」の定義に入っている。「殴られても殺されてもひとりじゃないだけまし」ってな具合に。だから、40歳過ぎての松子からは音楽が明らかに失われているし、それゆえ松子は神様になれなかったんだと思う。むしろ『自虐の詩』の幸恵のほうが神様に見えるし。
 あと音楽。「映画を観ました」って気分になれるストリングスを多用した音楽がすごくよかったし、この映画の通念したテーマになる「まげてのばして」が、とにかくいいんだわ。映画が終わってしばらくずっと口ずさんでいた。
97/100
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