OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

チャットモンチー「耳鳴り」

 2006年7月リリース。女性スリーピースバンド・チャットモンチーの1stフルアルバム。
 2005年に出した実質的デビュー曲「ハナノユメ」は衝撃だと思うんだ。これだけアーティストの本質を伝える曲でデビューできたのって2000年以降じゃ少ないんじゃないのだろうか?スーパーカーの「cream soda」やトライセラトップスの「Raspberry」、中村一義の「犬と猫」、2000年以降ではGOING UNDER GROUNDの「グラフィティー」や矢野絢子の「てろてろ」に並ぶくらい衝撃的な名曲だった。
 どこがどうすごいかというと、だ。まずイントロはなく、リズム帯のアンサンブルとボーカルのサビから始まる。えっちゃんこと橋本絵莉子の声は、割と細めの声質で、高いところだとひっくり返りそうになる。けどそれがまた心の敏感な部分を刺激する。
「うすいかみで」で重心を低く取って入り、「ゆびを」の「び」でいきなり5音上がり高音域に入る。このときのひっくり返り具合がまたたまらないのだ。そして「をきって」で元の位置に戻る。そして「あかいあかいちがにじむ」は低いところをキープする。この一連の流れはまるで風に舞いあげられるようで小気味いい。
 そして、この部分の歌詞。「薄い紙で指を切って赤い赤い血がにじむ」。おそらく誰でも紙で指を切ったとこはあるだろう。多少痛みは感じるけど、とりたてて大げさに扱うほどでもない、そんな痛み。歌が進んでいくにしたがってこの痛みが思春期の(そして恋愛におけるものでもある)移ろいやすい心とその軽い痛みとオーバーラップしていく。こうやって日常の小さな風景から心を浮き彫りにする歌詞づくりはスピッツの草野さん(特に初期)がよく行う。
 それで、この曲がNEW MIXとして収録されたこのアルバム。この曲以外にもシングル曲の「恋の煙」は印象的なメロとサビの繰り返しをあえて抑えることによって後奏で不思議な余韻を感じさせることに成功しているし、「恋愛スピリッツ」では女性特有の重い感情を絡みつくようなメロディで表現している。
 よく比較されるバンドにGO!GO!7188(以下ゴーゴー)がいるけど、ゴーゴーがどこかネタ的な狙い方をしているのに対し、チャットはあくまでも正統派、あるいは表現の発露として現在の形があるという気がする。チャットは「ジェットにんぢん」みたいな曲は歌わないだろうし、「ひょっこりひょうたん島」のカバーをするとは思えない。それはユーモアが足りないということでもあり、チャットの現時点での改善点かなという気もするが。
 ゴーゴーの楽曲でチャットに近いのは「こいのうた」と「どたん場でキャンセル」だと思う。特に「どたん場〜」のほうは戦術の小さな日常からのオーバーラップという手法が見られる。
 シングル曲以外では青春路線の「終わりなきBGM」あたりが良かった。けど、まだそんなに楽曲の幅があるわけではないので、前半で少し飽きがきたのも事実。けど、今聴くべきアルバムだと思うし、このアルバムの曲が全国のバンドやってる女の子たちにコピーされたらすばらしいだろうなと思う。


耳鳴り

耳鳴り