OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

転校生〜さよならあなた〜

 評論家というのはかわいそうな者かもしれない。無論、評論家といっても色々種類はあるだろうし、その評論方法も一様ではないだろう。でも、多くの作品を見ていくうちに、自身にとって良い作品の基準というのが生まれてきて、それにとらわれてしまううちに、そういった基準から外れているけれど面白い作品というのを見逃してしまうかもしれないからだ。かと言って、評論家的見方を外せば、それはある特定の作家の提灯持ちにしかならない。だから、評論(レビュー)において、誰々の信者だと明言するのは、もしかすると反則かもしれない。
 それを心に留めた上で言うが、ぼくは大林作品が好きだ。確かに大林が登場して以降の30年で映像技術は驚くほど進化し、当時は先鋭的だった彼の技術もすでにアナクロとなっているかもしれないし、彼の女性観は観客に「こんな女いねーよ」と思わせるのに足るものになった。その傾向は、年を追うごとに進んでいく。
 けれど、それでいいのではないかと思わせるのだ。それだけの説得力が彼の作品にはある。大林作品を観ていると、(新人を多く起用しているのが主な理由ではあるが)役者の力不足や台詞の不自然さなどで、観客は要所要所で「これはフィクションだ」と実感せざるを得ない。だけど、フィクションだからこそ現実を忘れられるのだし、瑞々しい青春時代がよみがえるのだ。この作品内で「物語」というものを強調していた大林作品だからこそそんな普通の映画だと物語を断ち切るような要素が物語を支える背骨となってくれる。ただ、大林作品はとても優しく物語の甘美さをこれ異常なく提供してくれる。だからこそこの世界にずっと浸っていちゃまずいななんて背徳感を感じさせることもあるのだが。
 さて、これは大林信彦監督自身による、「転校生」の25年ぶりのリメイク作。主演は蓮佛美沙子森田直幸
 前半は斜め具合が見事なトリッキーな映像と、信州の素晴らしいロケーションを堪能することができる。あと、斉藤一美の家の和風な感じや蓮佛美沙子の和服もかなり良いです。
 後半はシリアスになり、映像のトリッキーさもなりをひそめる。難病モノを毛嫌いする気のあるぼくなので、正直「大林お前もか」と思ったのは事実。だけど、ラスト直前の一夫と一美が滝壺に落ちて元に戻るシーン(ネタバレのため反転)、あれはもしかするとその時は一夫の中にいた一美が意図的にやったことなのではないかと思わせてしまう(再び反転)。作品内で明示はしてないのだけれど、そういった効果を残すのは有効である。
 それと、一美が元に戻った後に、一夫のくせであるピアノの運指が体に残っているというようなことを言うシーンがあるのだが(懲りずに反転)、あれは誰かを好きになった後には、その好きな人の影響が残るものだということを暗示しているのではないだろうか。こういったシーンを残すから、大林作品は見終わった後に何ともいえない、だけど晴れやかな気持ちを残すのだと感じた。

(追記)去年、かつて大林監督の映画が存在した筒井康隆原作の「時をかける少女」のアニメ映画が大ヒットしたけど、上記みたいな性格を持った大林映画と、(すでにその存在自体がフィクションである)アニメとの相性が良いのは十分に予測できることなので、少なくとも良作となるのは約束されていた、言ってみれば勝ち試合だったのだと思った。


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