OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

乙一「GOTH」

 乙一の連作短編集。猟奇殺人などに興味を惹かれる傾向のある物静かな少女・森野夜と同じ傾向がありつつも普段は友人たちとも明るく接している物語の語り手「僕」が町内で起こる猟奇的な事件に巻き込まれるが・・。というもの。ミステリー要素が強い。ただ、すごく非道徳的に見せつつも結局どこかそうなりきれない感じが残るあたり、やはりライトノベルでエンターテイメントなのかも。デビュー作「夏と花火と私の死体」なんてその非道徳さが前面にレアな状態で出た作品だったと思うんだけどな。
 やっぱり乙一は異常というものがどういうものか自覚しているのが弱いのだと思う。だけど、軽めの文体でエンターテイメントとしては高得点がつけられるけど。小説ならではのこともやってるし。
 好きな短編は「リストカット事件」「記憶」「犬」あたり。
 どうでもいい話だが、「僕」にはデスノート夜神月が、森野夜にはフルーツバスケットの花島咲がキャラクター造詣として重なる。
 以下、壮大にネタバレするので閉じまーす。
「暗黒系」
 名刺代わりの一作といったところ。「僕」の推理はかなり筋が通っているし、森野が危ない目に合いそうになって、「僕」がそれを、別に救出それ自体を目的としたわけではないけれど、助け出すことになる。そしてモラリスティックなことに興味ない
「僕」は犯人を警察に突き出すこともしない、というパターンを明示している。ただ、この「僕」がモラリスティックなことに興味ないからというのは、どうしても裏返しで言っている気がするんだよなあ。
「犬」
 著述ミステリーだね。てか、冷静に考えればそうだってわかるはずなのになんで騙されたんだろう。乙一がわれわれの常識に挑戦状を叩き付けた作品とも言える。作品としては相変わらずラノベ的。「僕」が最もヒロイックな印象を受ける作品。
「記憶」
 トリックに関して。
 おそらくこういう展開になるんだろうなというのは見破ることができたけれども、それを裏付けるトリックまで解明できない限り、ミステリに対して読者は負けたと言わざるを得ない。
 ある人物とある人物が入れ替わっていることまでは見破れたが(さすがに双子を使っていりゃ怪しむわね)、それでどうやって事件を遂行したかまで見破れなかったぼくはやはり負けであろう。
 この作品、ラストの森野の独白がどうもモラリスティックな気がするんだよなあ。
リストカット事件」
 ミステリとしては全作品中最も大したことない作品だと思うけど、「僕」のアンチヒーローな行動、及び考え方が最も炸裂していた作品。読んでて「おいおい」と言いそうになった。
 ぼくは割りとグロテスクな描写が苦手なので、結構読んでてきつかったのだけれど、少なくとも「GOTH」の看板に一番ふさわしい作品ではないかと思う。
「土」
 これも騙されたけど、あまりいい騙し方とは思わない。犯人の男のモノローグは結構面白いと思った。
「声」
 おそらくはここまで「GOTH」を読んできて、そして「記憶」を読んできた読者にはひとつの期待があったと思うんだ。それは、最後にこの作品全体の世界観を壊すような出来事が降りかかること。それも「僕」か森野の上に。
 そういう期待で読んだから、騙されたよ。そりゃ。すこしこの手の作品を読みなれていればこの手のトリックには気づくはずなのに。乙一の掌の上で踊らされたなと思う。
 だけど、この作品でわかった。乙一は結局常識人だ。エンターテイメントとしては傑作を生み出すかもしれないけど、深くいつまでもショックを与え続け読者に呪いを振り掛けるような作品には出会えないんじゃないかと。
 まあ、ライトノベルという媒体で(あるいは掲載紙「スニーカー」)発表された故の表現の限界があったのかもしれないけれどね。

GOTH 夜の章 (角川文庫)

GOTH 夜の章 (角川文庫)

GOTH 僕の章 (角川文庫)

GOTH 僕の章 (角川文庫)