鬼頭莫宏「ぼくらの」
鬼頭莫宏の「なるたる」に続く作品。
「なるたる」で気になった設定の説明の不明瞭さがコエムシというナレーター役を置くことで改善されている。
そして、おそらくここで作者はもうひとつ改善を狙っていることがあると思う。
それは、物語の勝利だ。
おそらく設定だけ取り出せば「なるたる」以上に絶望的だ。何せ、地球を救うためとはいえ、戦えば勝ち負けに関わらず死ぬのだから。
そして、進路も退路も死という状況に置かれた少年少女が、その場で何を大事にするのか、この辺のテーマは比較されやすい「新世紀エヴァンゲリオン」よりもわかりやすく、また考えに関してはその先を行っている。
さらに、「なるたる」では終盤にとってつけたように出てきた民衆の悪意というものが、今回は前面に出され、おそらくは決着をつける気概を見せている。
ぼくは鬼頭莫宏はゼロから新しいものを作り出す作家ではないと思う。民衆の悪意は「デビルマン」から、少年少女が戦うというのは「十五少年漂流記」から、そしておおまかな設定が西岸良平の短編「地球の黙示録」からの引用を感じる。無論それが悪いというわけではなく、先行する作品への批評的精神が感じられるからよいのだけれども。
しかし、この作品では、ひとつひとつのエピソードにおいてヒューマニズムと呼んでいいのかはわからないが、悪意に対応する形での「善意」が描かれている。これが悪意あるバッドエンドの補色に過ぎないのかは、今のところではわからない。
ただ、もしかすると自分で課した設定という絶望的な状況をひっくり返すこと、すなわち物語の勝利をめざしているのではないかという印象さえもうける。
まだまだ先の読めないこの作品。追わせていただきます。
- 作者: 鬼頭莫宏
- 出版社/メーカー: 小学館
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