OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

その土曜日、7時58分(シドニー・ルメット)@シネマパレット

【注:ネタバレ含】
 ルメット監督の映画は初めて観た。なかなか救いようのない映画で、ヲタ的表現をするならnice boat.といったところか。nice pillow.
 最初はまったく前知識を入れないで見に行ったため、「アフタースクール」のような映画だと思ったんだよね。脚本の妙をひたすら見せるエンターテイメント・ノワール・ムービーって感じで。ただ、観終わった今思うと、「アメリカン・ビューティー」に近いかなと思った。
 この映画は大きく二つに分かれるだろう。強盗実行までを面白おかしく語る前半と、強盗により噴出した家庭問題の入り組んだ様子が描かれる後半。どちらも時間軸をバラバラにするという「パルプ・フィクション」的な手法が使われているけれど、前半のそれがエンターテイメント性を試行した結果であるのに対し、後半のそれは人間同士のつながりを効果的に浮き彫りにする役割を果たしているという違いがあると思う。現に、後半に行くにしたがって時間軸を行き来するスパンが長くなるし。
 ちょっと早いですが以下畳みます。
 まずR-18になった原因と思われるのが、いきなり出てくるセックスシーン。フィリップ・シーモア・ホフマン演じるメタボ中年と、マリサ・トメイ演じる色気100%の妻。これが完全にミスリードを図っていて、てっきり私は南米に逃げ果せた後のシーンだと思っていた。*1それで、ホフマン演じるアンディはこの後の展開で見る限り、弟に実行させるだけさせて責任は果たしていないクズヤローとしか思えなかったから、それはちょっといやだなあと思いながら観ていた。
 そして強盗シーン→失敗の流れ。ここは実行犯について、襲う店について、それまでの顛末についてなどがだんだん解き明かされていくようで、まさに一流のエンターテイメントだった。
 後半がまさになんとも言いようもない。
 強盗の失敗をきっかけに兄は使い込みがバレ、弟は養育費が払えず、追い討ちをかけるように母親が死亡したことにより父親は強盗犯人への復讐を決意する。その主犯が兄だと知った父は・・・。
 兄が弟に対して失敗したことをなじるシーンでは兄に対してイライラがMAXだったけれど、それがだんだん、弟ばっかりが愛されて父親に愛されなかった、妻さえも弟に魅力を感じて浮気していたという背景が明らかになってくる。*2
 しかし、兄は愛されなかったがゆえに成功を手にしていた。満たされていない部分を埋めていたのが麻薬なんだよな・・・。どうにかしようとするあまり、兄は無益な殺人を繰り返し、最後には父親の手で息の根を止められる。逃亡した弟は、実家に帰った兄の妻はどうなるのといったように、観客に考える余地を残していることもこの作品の特長だ。
 全然特別なわけじゃない環境で起こる悲劇を描いている故に観客に内省を求める作品だ。重松清の「疾走」や、西川美和の「ゆれる」、「アメリカンビューティー」などが近いと思った。

*1:実は時間軸の一番最初。

*2:私も長男だが、これは「ゆれる」とともに弟とはみたくない映画だ。