変愛小説集
「変愛」です。「恋愛」でも「偏愛」でもなく。
このアンソロジーの中には、訳者の岸本佐知子さんが編纂した「変」な恋愛小説が11編おさめられています。僕はニコルソン・ベイカーしか知らなかったのですが、どれも面白く読めました。
「変」とは通常とは「変わった」ということです。なにせ、一番初めにおさめられた「五月」(アリ・スミス)の書き出しから
「あのね、わたし、木に恋してしまった。どうしようもなかったの。花がいっぱいに咲いていて」(アリ・スミス「五月」)
なのだから。
そのほかにも、
全身が宇宙服になる奇病に侵された夫婦の話(レイ・ヴクサヴィッチ「僕らが天王星に着くころ」)
若い芝刈り夫を呑みこんで体の中で飼う人妻の話(ジュリア・スラヴィン「まる吞み」)
タイトルだけで嫌な予感がするA.M.ホームズの「リアル・ドール」
短いけれど書かれていない何かを連想させる話(モーリーン・F・マクヒュー「獣」)
飛行船にさらわれた恋人を追って旅する男の話(スコット・スナイダー「ブルー・ヨーデル」)
陶芸にまつわる奇妙な感触の話(ニコルソン・ベイカー「柿右衛門の器」)
そして、外界から遮断された孤島で営まれる女たちだけの集落の話(ジュディ・パドニッツ「母たちの島」)など。
どれもこれも巷にあふれる恋愛小説とは一線を画しています。
ただ、この珍妙な設定に惑わされそうになりますけど、ここに出てくる人たちはみんな真剣で、真剣になるあまり周りからは常軌を逸しているように見えるのだと思います。
岸本さんの表現を借りるなら、これは「うんとピュアでストレートな純愛小説」だってことです。
もし日本から入れるんだったら、江戸川乱歩の「押絵と旅する男」とか谷崎潤一郎の「刺青」なんかがいいんじゃないかと思われます。
普通の恋愛小説に飽きた人はぜひ。
- 作者: 岸本佐知子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/05/07
- メディア: 単行本
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