歩いても歩いても(★★★★★)
2008年一番好きだった映画。
残暑の一日を描いていて、とりたてて大きな事件も起こらないのだが、一々文章にして表したくなるくらい引きこまれた。
サマーウォーズが好きな人は、全然違うジャンルだけどはまると思う。
※以下ネタバレ含む
最初は阿部寛と夏川結衣とその子供の関係もわからないし、原田芳雄と樹木希林が阿部寛の親だろうというところまではわかるのだけれど、どのような確執があってギクシャクしているのかというところまではわからない。
それが、物語が進むにつれて会話の端々から明らかになっていく。阿部寛の兄が昔海難事故で死んだことや、兄の妻だった夏川が阿部寛と結婚したという複雑な関係になっているため、その遺児との関係に思うことがあること。阿部が父親と同じ医者という道を選ばなかったことが確執となっていることも、原田が孫に医者を勧めたといの阿部の様子からわかる。
これはまた、男親というものの難しさを中心に据えている。女同士は家族であるとかそういったことは関係なしに、距離はそんなにとらない。しかし、原田‐阿部‐孫の三人は男同士でなおかつ複雑な事情が絡んでおり、そのため変に家族と言うことを意識してしまっている。それゆえ会話が生まれにくい(この沈黙の空気の気まずさがすごい!)。
そして、あえて解決させない伏線として樹木が思い出せない力士の名前や阿部が車の免許を持っていないことなどをうまく使ってラストのカタルシスを導いている。
特筆すべきは、樹木希林の演じる母親(祖母)の芯の強さ。完全に日本のお母さんを演じている中で、長男が溺死する原因となった男を毎年命日に呼ぶ理由を語るところでは戦慄した(樹木希林はこの演技でキネマ旬報助演女優賞をもらっている)。
彼女の死をもって、家族というタガがはずれることにより残されたものは自由になったのかもしれない。
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