杉下右京の事件簿/碇卯人(朝日新聞出版)
まず、面白いと思ったのは、1本目の『霧と陰』のほうが明らかに杉下右京という人物に対する描写をオミットしていること。
むろん、この本を手にする人にとっては杉下右京がどういう人か自明のことであろう。
だが、ここまで省いて大丈夫なのと思うくらい。正直に言えば、人物も多く、トリックにも無理がある。
おそらくは、相棒というフォーマットを用いた本格推理小説を書こうとしているんだな、という意志を感じる(うまくいっているわけではないが)。
ただ、この一本を通して「真実を明らかにすることが人々を不幸にするわけではない」というメッセージを感じたのはよかった。
そういえば相棒のスペシャル版って、前半はこういった小品を配置することがあるよね。
2本目は、完全にテレビ版のノベライズとして機能している。
バジェット的に、おいそれとテレビスペシャルではできないだろうが、現在みたく映画版も製作されている以上、全然実写化可能であろう。
やはりミステリーとして無理はあるし、猿をスーツで捕まえる右京さんはパない。
それと、杉下右京というキャラクターの説明係の富田を配置することにより、作品内に入っていきやすくなっている。
けれども、娯楽作に徹している故、この作品が深く人生に影響を与えるということはないだろうな、というのは感じる。
まあ、杉下右京という存在の几帳面さや生き字引っぷりは、それだけで小説1本を成立させてしまうくらいの魅力があるのかもしれないが。
- 作者: 碇卯人
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2010/11/05
- メディア: 単行本
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