OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

落語物語(★☆☆☆☆)

2011/6/6鑑賞

桜坂劇場Bホール



 まさかねえ、このタイトルでオチの無い話を延々と聞かされるとは思ってもみなかったですよ。

 いやー、しかしあまりにもつまらない映画だと頭の中で「こうすればもっと面白くなるのに」と映画が完成されていくので逆に面白いですね。

 

 早い話がさ、この監督さん、落語家らしいけど、全然映画の事わかってない。


 そもそも落語っていうのは嘘の共有度が映画とは全然違うので、そこを考え直さなくてはいけないはずです。
 落語自体、あまり映画と食い合わせのいい題材じゃないと思いますけどね。

 ひたすらオチのないエピソードの羅列が続いて、締めに川柳や短歌が来るだけ。
 最初観た時寺山修司かと思いましたよ。
 しかも、この川柳や短歌も、だんだん5・7・5・7・7のリズムからも離れてきて、一貫性がなくなるという、この辺りの杜撰さも許せなかったです。



 チラシによると、落語家あるあるがちりばめられているらしいけど、それで観客を喜ばせられなかったら元も子もないと思うんですが。



 あと、この題材で映画内死者が2人もいるってのもすごいよね。
 確か最初に死んだ人、ベテラン落語家で最初弟子たちのマナーが悪いって叱ってた人よね。
 で、なんかいけすかない感じで出てきて、師匠と話をして「もうちょっと大家を優しくすべきじゃないの」とアドバイスされるも反撥して舞台に出て、で話トチっちゃってそのまま転落していくわけですけど。
 まずさ、これって死ぬほどの事なの?
 嫌な奴に描かれているけど、やってることはまっとうだよね。
 しかも、師匠から言われたことが心に堪えている様子について説明がないから、観客が置いてぼりくらっちゃう。
 酒びたりの生活に入っても、その前提が描かれていないから観客としては共感できない。
 しかも死んじゃう。この死に意味ってあるの。これ相当悪質ですよ。ただ「人が死んどきゃ感動するだろ」くらいでしか入れてない。
 もし落語家のリアルがこれなら、70年代ロックンロールヒーローみたいなのが生まれててもいいですよね。
 こんな落語家がいたらもっとニュースになってもおかしくない。
 その意味で、リアルからも程遠い処にいるわけです。
 最近川上とも子さんがなくなったせいで「死」の描き方には厳しくなってますよ。僕は。



 あと、妻子あるロックミュージシャンと不倫していた女流落語家の扱いもひどい。
 一応、技術はあるみたいな描写はされているんですけど、練習している様子がないし、テレビのレポーターばっかりやってるから説得力がない。
 しかも、全部状況をセリフで説明しちゃっているのも痛い!



 それと、もう一つメインになるのは、ピエール瀧さんと田畑智子さんの夫婦。
 田畑さんはこの映画の中で好演していたと思います。
 映画全体のトーンが落語みたいになっているせいで、落語のシーンが全く盛り上がらないという問題点もありました。で、田畑さんも落語調のセリフ回しなわけですけど、まあ、これは僕が田畑ファンだからというのもありますが、キュートでした。
 ただ、彼女が亡くなるエピソードもあまり意味がない。特に、病床のシーンで夫役であるピエール瀧さんと掛け合いが長回しで撮られますけれど、ああいうのは芸達者な方がやるから観ていられるのであって、もちろん味はあるけれど役者としてはまだまだ技量の足りないピエールさんのあれだけ長回しの芝居をさせてみんしゃい。だんだん演技のパターンが尽きてきますから。或る意味、あそこはピエール瀧のアイドル映画的な部分だと思いました。


 一応、主人公にあたる弟子が会場に田畑の姿を観て勇気づけられて落語を成功させるというエピソードがあります。
 これ、映画を観てて一番噴飯ものだったんですけど、ちょっとうまく行きかけたのを見せて、シーンが切り替わって落語が終わっているんですよ!
 おい!これこの映画のハイライトで唯一本当に感動的にできたはずのシーンだろ!
 そもそも主人公を演じている人が若手落語家だからここに至るまでのセミドキュメンタリックな緊張感すら殺がれているし・・・。
 俺、ここを観て、この監督にそもそも落語愛があるのか疑問に感じましたよ!

 じっさい、落語愛があればちゃんと古典落語に絡めて個々のエピソードを群像劇的に描くという手法もあるじゃないですか?
 この監督、『幕末太陽傳』すら観てないんじゃないのかとさえ思いました。



 本当に、田畑智子さんしか褒めるところのない映画でした。