OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

スマグラー〜お前の未来を運べ〜(★★★★☆)

2011/10/29鑑賞

@ミハマ7プレックス



 前提として、僕は日本映画が何だかんだ言って、好きだ。 

 この石井克人の映画は、実に日本映画的なところに投げてきていると思う。 

 例えば、ここで描かれる東京の裏社会って、要は「裏社会ア↑コガレ」にとどまっている感じはある。 

 石井隆ノワールみたいな、マジモンのヤバさは感じないし、三池崇史の『DEAD OR ALIVE』(’99)に描かれるような凶悪さを煎じつめた感じでもない。 言うなれば、ポップに漂白された裏社会って言っていいかもしれない。ポップな裏社会のポップな拷問。それはマジモンの裏社会を描いたような映画が好きな人にとっては最も嫌悪すべきものとして映るが、個人的にはそういった映画があってもいいと思う。 

 そういった映画を描く宿命が、ちょっと前までの日本映画にあった。 

 その感覚を久々に味わえた嬉しさっていうのは、大きい。  



 まず、役者に華があっていいなと思った。 

 この映画は裏社会の話なわけです。 

 もともとマンガの原作があって、裏社会の人物を漫画的な誇張した表現で描くことで、我々側の主人公が引き立つところがある。 

 その点で、妻夫木聡というのは、多少タイプキャスティングな感はあるものの、適任だった。 

 見てて、やはり漫画的誇張されたキャラクターへの愛着が大きくなる分、妻夫木の優柔不断さがイライラしてくるのだ。 



 さて、この映画の敗因は、ようするに同じ年に『冷たい熱帯魚』が公開されたことだ。 

 あの映画に比べると、役者に頼りすぎている感はあるし、主人公と背骨の関係性の特別さとかは、もっと掘り下げるべきだったと思う。 

 あとは、ギャグ演出はすべっている感じがある。 『冷たい熱帯魚』の「社本くん・・・ちょっと痛い」以上の笑いが生み出せなかった。



※以下ネタバレ含む



 例えば、中盤に情をかけたせいで背骨安藤政信)が逃亡するシーン。ここは妻夫木の中途半端さがでていて、謝っているところなんか、本気で殴りたくなった。 

 ここがあるから、終盤に背骨と一体化するシーンのカタルシスが映えるわけです。 

 あとは、やはり裏社会には適さないということで、運送屋と決別するシーン。 

 この時点で債権者は殺されちゃっているから、彼がここで働く意義はないわけですよね。 

 で、ちょっとだけ名残惜しそうな顔したけれど、おさらばしたあとはあっさり帰っていく。 

 ここで観客は、ひょっとして妻夫木は最初から演技していて、運送屋の方こそ騙されていたのか、なんて思うわけです。 この辺り含めて、妻夫木はうまいなー、と思いました。



〜余談〜 

 妻夫木聡の演技はああ見えてかなり重層的だ。『マイ・バック・ページ』で明らかにフェイクの革命家に惹かれていく男を演じていたが、こことか、一般の観客には明らかに理解を難しくしているキャラクターにも関わらず、うまく演じていたと思う(ただ、この映画についてはやはり主演2人のルックスがあまりにも現代的すぎたという欠点があるが・・・)。そして、このイライラ感は、もしかすると『モテキ』の主人公を妻夫木が演じていてもよかったのではないかとさえ感じた。そして『スマグラー』の主人公を森山未来が演じる。なんだかね、意図的なんだろうけど、やっぱり妻夫木聡の演技はちょっとウェットで、全体的に良く言えばケレン味のある、悪く言えば奇を衒った演出の中で浮いちゃっているんだ。森山未来は『フィッシュストーリー』でかなりハマっていたし、こっちの方がよかったんじゃないかなと思う。  

〜余談終了〜



 あとは、拷問描写とか、さすがに肌にキリが刺さっているところとかは見せないけれど、それでも十分エクストリームな表現になっていると思う。 

 思うに、それは高嶋兄の過剰な演技と、妻夫木聡のリアクションによるところが大きい。 



 ただ、やはりあれだけの拷問を受けたら障害とか残るでしょう、とは思った。 

 難聴とかって、あんだけ短い時間で治るの? 

 このあたりの杜撰さは、意図的なものだろうか?つまり、妄想である可能性も残すことで解釈の幅を広げているのかもしれないが、この描写だと妄想である可能性がいささか高くなり過ぎないかと思った。

 

 あとは、満島ひかりがスクリーンの中心に来るとやはり華があるな。 

 ひょっとして満島ひかりって演技あまりうまくない、とは思った。 けどさ、彼女演じるちはるが、ちはるも実はフェイクにすぎなくて、それゆえ実は主人公に対し、戦友的意識を持っていた。 だからこそ、彼女の声はドスをきかせる一方で弱さが見え隠れしていた。 

 彼女の虚勢を本物にする意味で、主人公と背骨の一体化を知った時のちはるのリアクションが冴える。 とさえ、思うんだ。