OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

哀しき獣(★★★☆☆)

2012/2/12鑑賞

桜坂劇場Bホール



『チェイサー』(’09)で衝撃的なデビューを果たした韓国のナ・ホンジン監督の最新作。

 個人的なことでいうと、昨日の『小悪魔はなぜモテる?!』とこれでようやく今年公開の映画初めができた。



 韓国映画、それもバイオレンス系の映画の魅力がどこにあるかというと、やはりその過剰さ。韓国映画(に留まらずポップカルチャー全般に言えることかもしれないけれど)の歴史が日本映画の歴史をなぞっており、今の韓国映画はまさに70年代日本映画の熱気に近いものがある。しかも技術は2010年代のそれときているから、そりゃ面白いものになるでしょう、といったところ。

 この映画も、まず恥ずかしながら朝鮮族という蔑称であるとか、いわゆる中国への出稼ぎであるとか、そういった背景はまったく知らなかった。これは絶対に面白くなる設定であると同時に、政治的にもひょっとすると危ういところに接しているんじゃないかとか、そういったスリリングさを冒頭で示してくれたというのは、この映画の推進力となっている。

 実は韓国映画の魅力って、その大部分が場(ロケーション)によるものが大きいと思っているわけ。ここでも、言葉は悪いがドヤ街的な生活感溢れる街並がとにかく魅力的だった。生活感とさびれた感じは同居しており、それは僕等に退廃を想起させる。それが、滅びゆくものの美しさとして結実する。まさにこの映画のテーマに相応しい。編集も余韻の浸る間もみせず、多くのカットを切っている。ここが、本来湿っぽく描いてもいいはずの彼の境遇をドライに描くことにより逆説的に寂しさを見せる効果が(後になって)発生する要因となっている。

 そして暴力! はっきり言ってしまえば、この映画の主人公グナム(ハ・ジョンウ)は、当初は巻き込まれ型主人公の定型として狼狽しているだけにすぎない。涙さえみせる。しかしながら、それでもどうにかしてピンチを切り抜けていく。ここがねえ、『エッセンシャル・キリング』(’10)のヴィンセント・ギャロのようにぎりぎりで生身の体の人間がアクション映画的状況に置かれた時に出来る上限を見せているようで面白かった。彼も後半はミョン社長に感化されたかのように超人化していくわけだけれども・・・。

 

 とにかく、前半はテンポもよく面白かった。後半も決してテンションが落ちるわけではない。ではないのだけれども、多くの人が指摘されていることではあるが、人物関係が複雑になり脚本が錯綜してくるんだよね。

 これは狙った部分も大きいと思う。つまり、グナムの置かれた状況は自分自身でも把握できていない。はめられたというのは分かるけれども、誰が、という謎は物語のかなり後半まで明かされない。かといって、この映画はミステリー映画としての形式をとっていない。あくまでも、ノワールだ。ここでちょっと、ジャンルの壁が混乱の原因になっているんじゃないかなと思う。

 確かに、この構成ならミョン社長やキム・テウォン社長についての描写を入れすぎてしまったことは欠点といっていいかもしれない。ここでちょっと視点がぼやけている。もし描くのなら主人公をいれた3人が一同に会すシークエンスが必要だったろう。

 ただね、この映画って、前半は王道のエンターテイメントをやっているけれども、後半に行くに従いわかりやすい映画的カタルシスを排して行っている感があるんだよね。そうやって、結果的に闇に足を踏み入れた者に対し過度のセンチメンタリズムを抱かせないようにしている。本来ならとどめを刺すべき相手にも刺せないし、死に方だって決して美しいもんじゃない。

 観客には一部のバイオレンスシーンで笑いが漏れていた箇所があったけれども、ひょっとすると彼らの受け取り方が正しいのかもしれないです。