チェイシング・エイミー('97/ケヴィン・スミス)(★★★★★)
2012/3/25鑑賞
VHS
『スコット・ピルグリムVS邪悪な元カレ軍団』('10/エドガー・ライト)に影響を与えた作品として紹介されていたので観よう観ようと思っていた作品。ようやく鑑賞。
いやー、これは素晴らしい。恋愛映画と恋愛についての映画は別物だというのがぼくの持論ですが、この映画は後者のマスターピースだと思いました。ちなみに、後者に属する作品は『アニー・ホール』('77/ウディ・アレン)に始まり近年だと『ブルー・バレンタイン』('11/デレク・シアンフランス)に続きます。
大筋としては、漫画家のホールデン(ベン・アフレック)が日本で言うコミケのような場所で同じく漫画家のアリッサ・ジョーンズ(ジョーイ・ローレン・アダムス)に恋をするも、実は彼女はレズビアンで・・・といったもの。
この映画の伝えるメッセージは、いかに愛する人の過去を乗り越えるか、ということ。
後半に仰天する展開があり、オトコならだれでも身につまされるに違いない。
また、物語全体を覆うメタフィクショナルな構成も心地よい。
※以下ネタバレ
この映画の監督・ケヴィン・スミスは実際に主演女優のジョーイ・ローレン・アダムスと恋仲だった時期があるらしい。すなわち、この映画自体が彼女に向けたメッセージなのだ。
自分の過去の恋を乗り越えるために書いたお話を、自分の過去の恋人に演じさせる。自分では絶対やって観たくないけれど他人がそれをするのは見てみたい。その一方で、うらやましいという気持ちも確かにある。なぜかって、ぼくたちはそれほど完璧に過去を乗り越えることはできないから。
同性愛者の気持ちを振り向かせるという展開だけでもドラマになりうる。この映画の中盤に位置する告白シーンは本当に素晴らしかった。断っているけれども目を合わそうとしない≒心が動き始めている彼女の気持ちが伝わってくるようで。
しかし、この映画はそこで留まらない。
男の心に確かに存在する幼稚さ、すなわち、自分の好きな人だけは特別でいてほしい、というか、ぶっちゃけて言えば純潔を信じていたいという身勝手さをまざまざと見せつけてくる。
考えて見よ。彼女がレズビアンなら許せて、過去に複数の男性と関係を持ったことを何故許せないのだ?
はっきり言って、世の男性でこの身勝手さから解放されている人っていないんじゃないのだろうか?大なり小なり、その問題を持っているものと思われる。
この物語の主人公が真の成長を遂げるのは物語の終盤になってからだ。つまり、彼女の持つ悲しみを理解し、彼女も人格のある人間だと理解すること。
そして、その成長にあたって助言を与えるのが、彼の漫画のモデルの一人・サイレント・ボブである。
サイレント・ボブを演じるのは監督のケヴィン・スミス自身だ。
物語の最後、主人公がアリッサに渡すのが、彼の描いた漫画『チェイシング・エイミー』。それはこの映画で起こった出来事を描いたものだ。それを描くことで、彼は過去に決着をつける。
そして、監督も自身の経験をもとにした映画『チェイシング・エイミー』を主演女優に渡すことで、同じように決着をつける。
自分にはとても出来ない恋愛への決着のつけかた。でも、こんな風に決着をつけられたらどんなに幸福だろうと思う。
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